「―――んぅ」
口は男の大きくて薄い唇によってふさがれる。手で押し返そうとしても私の体は男の手とサーヴァント特有の強い力によって抱きしめられていて反抗すらできそうにない。あまりにも突然のことで目を瞑るということを忘れてしまっていたのか私の目の前には青空のような瞳と燃える赤の睫毛。それはまるで私を責めるようなものはなく、むしろ別の温かみを感じるような目だった。
「―――っつ、ほら」
大きな舌が自分の咥内に入っていく。ふわふわした頭ではそれに抗えるだけの力はない。だが少しだけ雑に扱われているような状態にちょっとした光を感じた。そして私はその舌に応じるかのように口を開ける。少し彼の目が細く弓なりに歪んだと思ったら口の中に何かが入った気がした。
「―――っ、あ、ああ」
口の温度で少しだけとろとろになった生チョコレート。久しぶりの食物。それを押し戻そうと応戦する。絡み合う舌。唾液。甘い味。口と口の境目には茶色に混じった唾液が少し漏れ出している。まるでそれは―――夜やることじゃないか。
「んはぁ」
チョコが私の口に入ったところで唇は離される。酸素不足か、口づけ由来か、私はくらり、と自由落下のように床にへたり込もうすれども未だ抱きしめられているからかそれはかなわない。思わず私は口の中にあるチョコを咀嚼して、ごくりと喉に通してしまった。
「どうだったかい? ショコラの味は」
したり顔で私に食事をさせた真犯人が眩しい歯を見せて笑う。そういやこうなったのは私が食べ物食べないという事実を知ってそこからちょっとした論争になって口ふさぐ云々になったからだっけ。
「……本当に私に食べさせるなんて」
「そりゃあ、食べてないというのなら不安になるさ」
彼の大きな舌は、私の舌をぺろりとなめる。チョコレートがきっとついていたのだろう。
「ひぅ」
「あー……やはり甘いなぁ。チョコか、メートルの唇のどっちかが……」
「アーチャー……多分それは……」
チョコの方、と言いたかったけどそんなこと言うのは今はダメなのだろう。ちょっとだけ考えて口を噤んだ。
「ああ、なら何度も確かめればいいだけのことだ。そうだろ?」
こくり、とうなづいてまたチョコレートが咥えられる。何度もされる口づけの中、さっきの口を噤んだことについて少しだけ私は壊れたのではないかとぼんやり思ってしまった。
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