「貴様――――!」
ずるりと直撃した雪玉が落ちると同時に閃光は鬼の形相へと顔を歪ませる。彼の怒号と同時に参加者たちは我先にと私の方に向かっていった。個性を発動するものもいれば、隠し武器を隠さずに持つものもいる。
集団が寄ってたかる惨劇のど真ん中、ましてや標的となっているのに心は凪いでいて次にやるべきことが嘘のようにするりと浮かんだ。
「ここは私が、どうにかします」
バッグに忍ばせたスカーフで口を覆うように顔に巻き付けて、次の玉を手の中に装填する。
「ボタン、お前―――」
「イレイザーさんは招待状を、私は時間稼ぎ。これが合理的だと私は思うのです」
先輩は息を飲んで一瞥せずに小さく口を開く。
「―――頼めるか」
「はい」
「そして俺が『目的』を果たしてここに戻ったら退却だ、いいな?」
「――――はい。それはそれとして質問があります」
「なんだ」
「敵を全員アウトにして構いませんか?」
そう私が問うた後、イレイザーさんは私の右肩をぽんと叩いてすれ違うように離れていった。
「ホームランだけは打たれるなよ」
先輩の足音が早くなり、遠くへと消えていく。肩が温まり何回でもいけそうな気がしてきた。
雪玉を構え、球数が多くなりそうなゲームに備える。ここから先は援護点が入るまでの耐久戦だ。
足音が消えた途端、眼前には数多のバッターたちが波のように襲い掛かる。腕を振りかぶり、まずは先頭をうち取るべく雪玉を握りしめた。
「――――試合開始」
一球、敵の顔面にまた命中させる。
息をつくまもなくまた一つ、振りかぶって投げ続けた。
◆
「っと」
宴会場で試合が始まりしばらくした後、気だるげな男――イレイザーヘッドは道中で妨害する敵を無力化させつつ、受付役を捕縛しその上に押さえつけるように腰かける。気だるげでありながらも鋭利なものを思わせる声で問うた。
「さて、招待状はどこにある。まだあるよな?」
「知らねぇよ! もうあらかた集め終わったしただのバイトだからなんも知らねぇ!」
「だがただのバイトでも回収していたのだろ? ならどうしたか知らないわけがないよな?」
「―――」
イレイザーヘッドは捕縛した受付の顔を覗き込む。逆立つ髪、血走る三白眼に睨まれた男は観念したのか口を開いた。
「……受付机に白い箱があるだろう? そのなかに入ってる」
「よし、それでいい」
黒い男は拘束した男から視線を外さずに白い箱を開けていくつか招待状を取り出して回収する。
そして捕縛布を切り落として机の足に男を結びつけてから早足でホールへと戻っていった。
「さてと、ベラスニェーカの援護に向かうか――」
◆
いつも以上に長く投げているせいか、肘と肩が悲鳴を上げている。空気は冷えているからか痛みはまだましだ。孤軍奮闘は慣れているが今回は援護が約束されているからだろう。おまけにスカーフもずり落ちた。
ただ、敵がいつもより多い。急所に当て続けたり時折手当たり次第の長物でノックアウトさせたのはいいが、敵が多すぎた。大きな口を叩くべきではなかったことを今ここで、悔やみたい。
「まぁ、ここまで仕留めたことは敵ながら称賛すべきでしょう。1人で三試合分のノーノーを成し遂げようとするとは」
「ねぇねぇ閃光編集長なにいってるの? 蘭ちゃんわからなーい」
「野球みないのか? おまえ」
「おいモブあんな長ったらしいの見てられるかっての」
「だいたい映画1本分ですよ、寺田さん」
「長過ぎる、あと色々覚えるのめんどい」
残り3人。床にはノックアウトされた敵たち。
きちんと立っているのは閃光編集長に、モブと呼ばれた赤線で書かれたようなバットを持つ男に、寺田蘭。そして私だけ。雪玉をおそらく数個作ることができるだけの力はおそらく残っている。あとは狙い通りに投げることができるかどうかだ。
足で踏ん張り、大きく腕を振りかぶる。
「まぁもういい。援護待ちの中悪いがホームランくれてやる」
男がまっすぐ私の方にバットを向けて、構える。雰囲気は強打者のそれだった。
「失投すると、思いますか?」
「ああ、もちろん。それをかっ飛ばして打ち砕く」
細い糸が一瞬だけ煌めく。
バットを構えた打者に死球は無理だ。しかしこれは試合ではない。敵との戦いだ。
狙いは彼ではない、背後の観衆を狙え!
一歩踏み込み、頭のあたりで雪玉を離す。最初の一球より速度は落ちたが狙いは十分。振っても打ち返されることはないくらいゾーンから離れていて―――
「モブ! 私たちを守れ!」
蘭の叫びと同時にモブと呼ばれた男はバットを即座に長く持って雪玉を芯で打ち返す。
粉々になった雪は、まっすぐ私の方へと向かって飛んでいった。
「投手強襲の安打か。そして蘭、オレはモブではない。―――ヨーシャと呼べ、といったはずだが」
苛立ちを乗せたバットが次に打ったのは、私だった。
みぞおちにクリーンヒットして視界にきらびやかな光が映る。意識を保てはしたが座り込んで彼らを見据えるのに精一杯。これでは腕を、振るえない。
「あー、ありがとねヨーシャ。それとそろそろ閃光編集長、アレの化けの皮はぐ時じゃありませんか?」
一歩も動かずに寺田は歪んだ笑みを浮かべている。それとは反対に編集長は一歩、また一歩前へと歩み寄る。
「だね、寺田さん。まあイレイザーがいないのは残念だがそれは後の楽しみに取っておこう」
じゃあ、君たちは僕がいいというまで目を固く閉じていてと編集長は告げた後私の方へと向き直る。
「えーと、寺田さんから話を聞いているよ。雪洞牡丹さん。早速で悪いけどちょっと振り返りしよっか」
手のひらを私に向ける。目を閉じていたいが彼によって強制的にまぶたをあげられていて閉じることができない。
「過去に目を背けないで―――ヒカリアレ」
そう男がいった途端、視界が白で塗りつぶされる。
そして、脳がえぐられたような感覚がした。
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