甘美なる拝領

「ありがたく飲め」
 テスカトリポカの薄い唇が私の唇に重なり、半ば強引に口を開けさせられる。するとどろりとして苦く、スパイシーなものが私の口に注がれた。口元には彼の手が添えられて体は彼の左腕で強く抱きしめられている。口移しでショコラトルを彼から拝領できるというという栄誉。それ相応の対価は支払っていないというのにどうしてと聞きたいところだがそれをしたら最悪痛みある死が待っていそうなのでただ黙って飲み込むことにした。
 あつい、ただあつい。したが、やける。
 苦いはずなのになぜか甘くて、飲み込めるだけの量が注がれたはずなのにまだ飲み込み切れない。
 唇は離されて、中に移されたショコラトルがこぼれない様に口を固く閉じ、慎重ににそれを喉に通す。のどがやける。目の前の彼はただ満足そうに汚れた口を拭い、サングラス越しでその青い目を細めていた。
「どうだ、アステカの王の贅沢品は。後の世じゃあ神の食べ物と呼ばれたりもしたが……一説にはあのトリ公がもたらしたともいうがまあアレだ、日頃戦っているかつあの時の『銃の礼装』の一件に関するお嬢への贈り物だ。全部残さずこぼさずに飲め」
 彼の口角が上がる。口の中が火傷しない様に慎重に、ゆっくりと痺れた舌で味わいながらごくりと飲む。口の中のショコラトルがなくなってようやく口がきけるようになった。息を継いで念のため口を拭う。あの時の口づけで少しだけショコラトルが漏れたらしい。
「あ、ありがと、ありがとう、ございます。苦くておいしかった、です」
「ゆっくり喋れ蒼。今じゃあさらに砂糖なり色々入れるらしいがまあこういうのもいいだろう?」
 そういって彼の左腕の力が強くなっていく。そういえば私の体はまだ、解放されていない。まずい、からだが、あつい。スイッチが一気に切り替わるようだ。
「ああ、そういえば言い忘れていた。ショコラトルは所謂強壮剤としても飲まれていたらしいぜ? お嬢」
 薄い金色のカーテンが視界に入る。囁くような声が耳を撫でる。吐息が熱い。くつくつとテスカトリポカの喉が鳴る音がした。たばこのにおいが心地いい。
 気づいたら私は彼の背中に手を回していた。無駄のないしなやかな肉体を撫で、指先に力を籠める。
「きょうそう、ざい……」
「そうだ、お嬢の体を元気にするんだ。その様子じゃもう効果が出ているようだが色々と素直なんだな、お嬢は」
 色々な意味で心配だとテスカトリポカ思うワケ。
 そういって彼は指で私の背中を服越しにつつと撫でる。変な声が出そうになったが唇を文字通り噛んで堪えた。常日頃チョコレートは食べているはずなのにこれは、おかしい。それとも神様が作ったからこうなってもおかしくないのでは?
「さあて、お礼がまだだったな。あの銃について色々教えてもらったお礼だ。受け取れ」
 さっきよりも深い口づけがもたらされる。武器魔術礼装という戦士にとっての生命線のしくみを明かした対価は、もたらされたばかり。彼の体は刺青が刻まれて、そして、私はその彼の対価をその体で、享受した。

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