―――ゆめを、みた。
銀髪の青年が私に求婚する夢を。ずっと思いあって他愛もないことを話し合って、その過程で彼が甘い言葉を言ったのだった。芯の通った甘い言葉であることを覚えている。
「―――、どうかこの私と一緒になってほしい。一緒にたくさん食べ物を食べて欲しい。いいや食事の時に限らずずっとずっと連れ添ってほしいんだ」
それはとても実に心地よくて、清らかな言葉。私はその言葉に対して首を縦に振った。あまりにも温かくて、心地いい。そうすると後ろから白銀の甲冑を身にまとった男がやってきた。
「卿なら彼女を幸せにできると、信じていますよ。我が妹を宜しくお願いします」
それは太陽の如く輝いた金髪を持つ騎士だった。にこりと真昼の太陽のような温もりで笑いかける。心から私たちを祝福しているというのは明らかで、ほらほらと私の愛する人の背中を押す。
「ああ、ありがとう! 本当に、本当に嬉しい! ガウェイン卿! いや兄上と呼んだ方が……」
「まだ少しだけ気が早いですよパーシヴァル卿。確かに私は―――の兄ですが正式にまだ……」
「で、あれば」
と、パーシヴァルが私の手の甲に優しく口づけをする。薄いがとても柔らかいそれが触れた時、甲冑に反射した光が私の目に飛び込んできた。眩しくて、何があったのか分からない。ただ確かだったのは「幸せ」はこのことかもしれないということだった。
そして、全ては暗転する。
◆◆◆
「―――さん、名前さん?」
ゆさゆさと私の体を揺さぶる感覚がする。ゆっくりと目を開けたらそこには橙の髪の少女がいた。
「あ……立香ちゃん、どうしたの?」
「探したよ、名前さん。今日は一緒にこの前の妖精國について聞いてもらうって約束しましたけど……」
「ああ、ごめんね。なら早速話してくれないかな?」
「分かった、確かこの前は……」
人類最後のマスターこと藤丸立香の話はとても興味深い。一般的に伝えられている伝承並びに神話とこの世界における実際のものとの違い等はここカルデアにてそういった類のものを調べている私にとっては垂涎ものだ。カルデアでも英霊達と交流することはあれども沢山かかわってきたことのある彼女だからこそ語れるもの、彼女しか語れないものがある。そして彼女もまた私のそういうところを知っているからこそ色々打ち明けてくれていた。
まるで絵本のように美しかった妖精國。そこで出会った数多の妖精たちとそこを収めていたモルガンなる妖精とその配下たち、そして……驚くべきことにパーシヴァルと名乗っていた人間の青年もしてくれた。どうやら私はその妖精國におけるパーシヴァルの話に食い入るように聞いていたらしく、マスターはその彼の様子をたくさん語ってくれたのだった。
「……もしかして、名前さんは一番英雄の中で好きなのパーシヴァルなんですか?」
「え? あの、そういう訳ではないんだけどこう、どこか引っかかるというか……いい意味で……」
「本当のところは?」
「……もしそこにいたら、本当にそうだったのかもしれないと想いを馳せていただけです」
「本当にパーシヴァルが好きなんですね、名前さんは」
どうやら私はとても分かりやすいことをいってしまったらしい。ニコニコとマスターは微笑んでいてまるで私が新しいお菓子にはしゃいでいる子供を見ているような目で見ていた。そして私は異聞帯パーシヴァルの行く末をマスターから聞いた。ロンギヌスの槍、一騎打ち、そして……姉であった妖精騎士ランスロットことメリュジーヌとの別れ。間違いなくそれは、「パーシヴァル」の名前に恥じないものであり少しだけ眩しく思えてしまった。
「……本当に、そちらのパーシヴァルもすごくいい人だったんだね」
「うん、優しくて、ロンディニウムのために何が出来るかということを考えて行動していた勇ましい騎士だったよ」
ふ、とどこか懐かし気な顔になってマスターは俯く。きっと彼女もまた彼に対して思うところはあったかもしれない。その思索の邪魔をしてはいけないので私はそっとその場を立ち去ろうとしたらはっとした目をしたマスターが呼び止めた。
「ところで話は変わるけど……気分を悪くしちゃったら申し訳ないのだけど……名前さんってどこかガウェインとかガレスに似てると思うんだよね髪の色とか目の色とか雰囲気とか」
「もしかして、前世が彼らの血縁者だったのかしら、ねぇ……冗談だけど」
「あぁ、確かに!」
「でもね、私はブリテンの方じゃないの。貴方と故郷は同じ。こればかりは分からなくてね、当主の姉さんもちょっと調べた後で「全く分からない」と匙投げちゃったのよ」
「んー、きっとそういうこともあると思うよ。世界は広いし」
「それもそうね! マスターがいうのなら確かにそうね!」
もっと話そうか、というところで管制室から呼び出しがかかったので私はその部屋を後にした。お守りとしていつも身に着けているアーガイル柄のマフラーとサファイアの指輪――シルバー部分にはギューフのルーンがあることを確かめて私は急いで管制室へと向かっていった。
◆◆◆
「よぉマスター、さっきなんかギューフの文様たくさんつけた嬢ちゃんを見かけなかったかい?」
「ギューフ……?」
「ほら、Xのようなルーン文字だが。それがいろんな色で規則的に並べられてるんだが……ひし形とか……」
「……多分それはアーガイル柄だよ。うん。キャスターの方のクー・フーリン」
◆◆◆
「端的に言おう、名前ちゃんにレイシフト適正並びにマスター適正があることが分かった」
部屋に入るや否や管制室の主であるダ・ヴィンチちゃんが告げる。それは余りにも唐突でいきなりガンドとの重ね技で制止のルーンがかけられたようなものだった。
「―――え? 私にですか?」
「本当さ! さっきちょっと資料整理したら君のデータが出てきてね、健康診断のも同封されていたから見たらびっくり、適性があったんだよ! そこでだけど君、パスの繋がったサーヴァントを召喚してみないかい?」
「で、でもそうしたらマスターは……」
「大丈夫さ、特異点修復並びに人理修復のメインにあたるのは今のマスターさ。それに今はほら戦力はあればあるほどいいだろう?」
それもそうか、と私は合点しダ・ヴィンチちゃんの説明を聞き続ける。とりあえず要点をまとめると「いざという時のためにパスの繋がったサーヴァントを召喚しよう」ということだった。確かにマスターがレムレム状態の時に緊急事態が起きてしまった時のための解決手段は合った方がいい。
「それも、そうですね。分かりました。やりましょう、いや、是非お願いします!」
「じゃあ早速やろうか! 善は急げというしね!」
◆◆◆
召喚室にて、マシュの盾と霊基グラフを置いてその周囲にルーンを刻んだ宝石を配置する。後ろには何かあった時のためにダ・ヴィンチちゃんとカメラがある。
「いやぁ、召喚のことを伝えたらマスターちゃんとマシュが見届けたいっていったから設置したけど大丈夫?」
「いえ、大丈夫です!」
カメラ越しにはマスター、そして目の前には召喚陣。すう、と私はいざという時に頭に叩き込んでいた詠唱を口にした。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
いつかマスターがいった言葉を形にして英霊召喚を行う。触媒無しの縁召喚が一番確実ということで触媒はなし。ふつふつと自分の中の回路が起動していくのが感じられる。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
白い珠が浮かび上がり三つの輪が広がり回る。バチバチと閃光が弾けてそれが私の根幹へとつながっていくのが感じられた。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者」
ふと、かざしている右手を見た。赤い文様が段々と浮かび上がってきている。それはまるで両翼の生えた十字架のよう。あの槍に貫かれた子のシンボルが浮かんでいた。
「汝 三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
思わず目を瞑る程の白い光が部屋に満ちる。ぱちぱち、ぎゅんぎゅんという音が溢れていく。右腕に電流が絶えず流れ、何かが開かれる感覚がした。
「ぐっ―――、あ、うぐぁ―――」
いたい、痛い痛い痛い。体が鋭い槍で貫かれたような痛みが走る。それでもその痛みの辛さを出してしまったら大切なものを取り逃がしてしまいそうだったのでじっと堪えた。
「――――――っ!」
途端、ぎゅと右手が掴まれるような感覚がした。まるで私を引き留めるかのように握る手は大きくて、骨ばっている。まさに男の人の手だった。その手に握られた途端痛みは波のようにひいていった。痺れも、痛みもなにもない。光もそれに合わせて収まっていく。
「あ―――」
ゆっくりと目を開けた。そこにいたのは、夢で見た白銀の騎士様だった。大きな体でいて、青い目が映える顔。そして右手には大きな槍。そんな彼が私の手を握っていた。すう、と騎士は息を吸って口を開く。
「円卓第二席、騎士パーシヴァル。此処に現界を果たしました」
パーシヴァル。その名を聞いた途端私の中の胸が弾ける感覚がした。私の右手は、夢で見ていた彼、どことなく気になっていた騎士によって握られている。アクアマリンのような目は私をじっと見つめている。彼はまるで、会うのを楽しみにしていたといわんばかりの笑顔を浮かべていた。
「もう一つの聖槍と共に……おや?」
ふ、とパーシヴァルは私の顔を覗き込む。そしてふむふむ、うんうんと唸った後で私の手を離して問いかけた。
「何処かで、会いましたか?」
「い、いえ……!」
その顔でそのようなことを言われることが少しだけ気恥ずかしくてつい否定をしてしまった。本当にそうであって欲しい。その言葉を聞いた彼は眉毛をハの字にしてうなだれた。
「そうでしたか、とんだご無礼を働いてしまって申し訳ありません、マスター。あまりにも……知り合いに似ていたので、つい」
す、と立ち上がりパーシヴァルは改めて私の方に向き直る。
「だ、大丈夫ですよパーシヴァル、さん。それと私のことは名前でお願いします」
「そんな! マスター、ありがとうございます……。では、この聖槍と共に貴方の力となりましょう!」
そしてパーシヴァルは私の令呪に口づけをした。騎士ならではの誓いの証にどこか既視感を覚えた私はただ、彼の口づけをぽやぽやとした感覚のまま眺めるしかなかった。
◆◆◆
「……あれ?」
一方その頃、マスターは一つのレポート用紙を目にしていた。名前の召喚の儀をカメラで見届けた後なにか思いついたかのように本棚を探し出した後偶然円卓に関するレポートを見つけたのだった。
「どれどれ……」
ふむふむとざっと目を通す。
「いや、まさかね……こういうことあるのかな……?」
それは走り書きであるが、見逃すことは出来ない内容であった。ブリテンにある伝承にて或る女がパーシヴァルと結ばれていたという話だ。円卓の騎士にまつわる話は語り手によっていくつものパターンがあるが彼女が読んだのはその或る女はガウェインの妹であるというものだった。
「うーん……まあ、そういうこともあるんだね、きっと」
もし、彼女の前世が仮にその或る女だったら――本当に縁を通じた召喚だったのかもしれない。それはそれでロマンチックだと思いつつマスターは召喚が行われた部屋へと歩んでいった。
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます