今だけでも

 陣幕にて、一対の男女は決して離すまいと口付けを交わす。深く強く、互いを抉るように。彩度の低い男の瞳は、なされるがままに溺れる女の様子を映していた。唇が離れる一瞬、女は男の名をうわ言のように呼び、それに応じるかのように男は女の口を塞ぐ。
「ぁあ……や、ばた、いどの……そろそろ、いかな……きゃ、んんぅ……」
 馬岱と呼ばれた男は、これで最後と言わんばかりにちゅっと音を立てて口を離した。
「……そうだね。俺たちそろそろ行かなきゃ。そしてまた、生き延びよう」
 そして二人は陣幕から出た。甘い香りは全て鉄の錆びた匂いに上書きされるまで、そう遠くない。

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