馬岱

絵筆に願いを

「馬岱殿は、平時にはいつも絵を描いていらっしゃるのですね」「んー、法正殿、まあね。俺にとっては絵は俺の一部のようなものだからやめられることは出来ないんだよぉ」 空青い成都の或る部屋にて、法正は馬岱に書類の進捗状況を尋ねようと部屋に入ったが、…

花は逝く

「馬岱殿、馬岱殿……何私の髪の毛で遊んでるんですか?」「遊んでいる、というより君の髪の毛にちょこっと飾りをつけてるだけだよぉ」 春の夕暮れ時に二人は野に座り、馬岱と呼ばれた男は女の髪の毛に野の花を飾りたてていた。普段は武器を持つ武骨な手で、…

誓いの夜

「ねえ、俺たち夫婦にならない?」 それは、あまりにも突然のことだった。夜、事が終わり、ふわふわとしたまどろみの中で隣の愛する人から言われた言葉。さすがにそれが分からない私でもない故に、頭の中が白く弾けたような感覚がした。「……馬岱殿? 何故…

渇愛墨華ー共穢ー

「――――雨、か」 成都にて、女は雨降る中ゆらりと外に出る。雨よけの道具すら一切もたず、ただ雨に打たれに漂い始めた。冷たい雨は無情にも女の体を濡らし、冷やす。それを気にせず女はあてもなく、雨の中にいた。だらりと伸びた腕は、どことなく空を握る…

今だけでも

 陣幕にて、一対の男女は決して離すまいと口付けを交わす。深く強く、互いを抉るように。彩度の低い男の瞳は、なされるがままに溺れる女の様子を映していた。唇が離れる一瞬、女は男の名をうわ言のように呼び、それに応じるかのように男は女の口を塞ぐ。「ぁ…

唯一の結髪

「君の髪って、本当に綺麗だよねぇ」 骨ばった手で、男は女の髪を編む。長い髪が一本の三つ編みになっていく間、少しだけ重い沈黙を破ろうと、いつもの調子で男は切り出した。「まるで墨のように黒くてさ、触ったらするするしてて……」「ありがとうございま…

陰から光へ

「……如何したのでしょうか、馬岱殿」「そんなにかしこまらなくてもいいよ。……ああ、そっちじゃないよね。これから戦勝記念の宴があるんだけどさ、君も来ない?」 ある陣地にて、は男から宴の案内を受けたが、首を横に小さく振った。「申し訳ありません。…