「馬岱殿は、平時にはいつも絵を描いていらっしゃるのですね」
「んー、法正殿、まあね。俺にとっては絵は俺の一部のようなものだからやめられることは出来ないんだよぉ」
空青い成都の或る部屋にて、法正は馬岱に書類の進捗状況を尋ねようと部屋に入ったが、そこにいたのは書類を隅にかたせて机に紙を広げて一枚の絵を描いている馬岱だった。書類を確認して全て処理済みであることを確認した法正は、それを手に持ち部屋を出ようとしたものの絵を描いている馬岱の様子がどこか楽し気であった故に声をかけてみたのである。
「今日は何を……」
「ああこれ? 最近この女の子の絵を描いているんだよね。勝手に筆が進むというか……」
ほら、と馬岱は手を止めてまだ途中である絵を法正に誇らしげに見せる。彼はまじまじとその絵に描かれている様子をゆっくり読み解いた。
「花、喜んでいる女性、髪の毛は編まれて……月英殿が作ったと思しき目の補助道具……もしや彼女は……白霜殿……?」
「分かっちゃった?」
「ええ、一応彼女とはよく話すもので。しかし彼女はこんな顔というか様子を見せなかったはずですが……」
ううむ、と法正は腕を組み眉間に皺寄せて唸る。それを見た馬岱はどこか遠くを見るような目をして、語った。
「そう、この絵のような彼女を俺も見たことがないんだよ。ただ俺が見たい彼女をこの絵に描いてるだけ。まあ、霜殿に見せることはないけどね」
「なるほど。だからせめてこうして筆を執っていると」
「そういうこと。でも実際に、見られたらいいな」
返しますよ、と法正は丁重に絵を馬岱に返す。
「よろしければこの俺がお教えしましょうか? 彼女にその笑みを」
「ありがとう、法正殿。でも俺自身で頑張るから気持ちだけ頂くよ」
「……そういうと思っておりましたよ」
では、と法正は書類と共に馬岱の部屋から退出する。一人残された馬岱はただ、再び絵に向き合って【幸せな恋人】を描いていった。
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