「――嘘だろう、おい」
男がマイルームに足を踏み入れた先で見たものは、名状しがたい光景だった。
一人の女がベッドにうつ伏せになっていて、その女が持っているモノはウォッカの瓶。ベッドの下には小さな瓶がいくつか転がっていて何があったのかは明白。充満するアルコールの匂いに男は顔を少しだけしかめた後つかつかと女のもとへと歩みよった。
「おい、起きろそして返事をしろ蒼。ほんの少しだけならまだしもここまで酒に溺れるとはどういうことだ」
「……あ、てすかとりぽかしゃん……」
「呂律回ってねぇじゃねぇか。どのくらい酒を飲んでいた」
「んーと……」
テスカトリポカに揺さぶられ蒼は起き上がる。顔は赤く、口角は緩んでいた。女はウォッカの瓶を握りしめたまま考え込み、はつらつとした声で答えた。
「この瓶一本だから……200mlと、あとワイン1瓶だから750mlくらい?」
「結構飲むんだな……道理でプルケを飲ませたときびくともしなかったと思ったらいける口だったか……お前……」
男は節くれだった手で自分の顔を覆う。その彼の様子を物ともせずに彼女はただひたすら鼻歌を歌っていた。
ウォッカの小瓶を応援クラッカーのごとく振り回し、首を左右に揺らす。まさに傍らに人無きが若し。ちらりとテスカトリポカは女の様子を見たがすぐに目をそらした。
「……見なかったことにするか……いや、無理だな」
「……?」
「いや、なんでもない」
「わかりましたー。あの、これは質問ですがどうしてテスカトリポカさんは私の部屋に着たのですか?」
「銃を見せてもらおうかと思ったが……この様子じゃ無理だな。また今度にする」
邪魔したな、と男は立ち上がるがぐいとコートが引っ張られ椅子に無理やり座らされる。小さく舌打ちをして蜂のような目で彼は睥睨した。
「おい、お前。この俺を止めようとはどういう了見だ」
「……その、いっしょにいたい、だけです」
「いっしょにいたいだけか。それだけのためにこうして足止めか?」
「ちが、ちがいますぅ……その、出来る範囲でなんでもしますので少しのあいだだけいっしょに」
「なんでも、ね……」
男は小さく息を飲む。途端、彼の淡い黄金の長い髪は女の顔をカーテンのように覆った。
白い肌に青く透き通った瞳がサングラス越しに見つめてくる。女の体からは酔がすっかり覚めたのか笑顔が消えた。
「本当に、出来る範囲で何でもするのか?」
「――あ、いや、あ……」
ふるふると首を横にふる。男は上体を起こし髪の毛を簡易的に整えた。女はただその様子を見つめることしか出来ず、声すら上げることもままらない。
「よかったな、もし今じゃなかったらお前は体の何処かに穴が空いていたぜ」
ひらひらと手を振りながら男は部屋を退出する。一人残された蒼は寝台の上で脱力し、再びウォッカの瓶を握りしめた。
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