「……常々から疑問に思っているのですがどうして、こう貴方はぽんぽんと愛の言葉をこう、囁けるのですか?」
時計の針が頂点に重なる頃、蒼は愛する人の中でこっそり問うてみた。逞しい腕に抱かれて、自分じゃない熱を感じている今でしか言えないこと。男はそれを優しく、当たり前であるかのように答える。
「別に、思ったことを口に出してるだけさ」
ほら、と無骨で大きな手で女の頭を撫でてやる。女は条件反射でくぅと鳴き、男の胸元に自分の顔を隠すようにして埋めた。脱力している胸筋が柔らかく彼女の顔を受け止める。
「ああ、別にこう癖というか女性に愛を囁かずにはいられない性質でな……とりわけオマエさん相手だとこう、泉のように湧き上がってきているんだ。今こうして二人で布団にくるまっているときでさえ、愛情とそれを表す言葉が……」
「―――」
がばり、と女は顔を男の方へと向ける。青い目に普段はオールバックにしている赤毛は下ろされていて、どこか柔らかな印象を与えていた。恐らく自分しか見ることはないだろう彼の姿に思わず唾を飲み込み、口を開こうとしたが結局何も言えないと彼女自身が結論づけたので再び口を閉ざすことにした。男はちょっと考えた後、再び彼女に優しく語り掛けるように言う。
「そういうの、オマエさんは苦手だろう?」
「……はい。自分でこう、口でうまくいったりするのが苦手なのです。結構疲れますし、よくないものまで吐き出してしまいそうなので黙った方がいいかなと思いまして。口下手で返事などが苦手な私なんかは特に」
「まあ、分かっているさ。無理強いはしない。けどな」
男はぎゅ、と女の体を抱きしめる。そして男は女にそっと囁いた。
「―――思い切って口にしてみるのもいいもんだぜ? マドモアゼル」
あ、と女は口を開く。
「……言葉、に」
「そう、言葉だ。文章にしたためるというのもいいが声に出してみるのもまたいいものだ。さぁ、ほら練習として何か言ってみてくれ」
男は女を自分の胸元から離す。そして優しい目をして男は待った。蒼はすう、と息を吐いて何を言おうかと思案する。そういえば私、先ほど何を―――あ、ナポレオンさんの髪の毛の話じゃないか。
「―――練習、ですか」
「ああ、ほら何か思ったことをいってごらん」
ナポレオンに促され、蒼は意を決して小さな声で、彼に言った。
「……その、前髪下ろした姿も、とても、素敵……です」
あ、と男は声をあげる。言葉を咀嚼する間を置いた後、彼は太陽のような笑みを浮かべて彼女に何度も何度も額と頬に口づけを落とした。
「な、なぽれおん、さん……!」
「いやぁまさかそのような言葉が聞けるとはなぁ……! メルシーボークー!」
ああ、と女は真っ赤な顔をして男の口づけを甘んじて受ける。大きな口に薄めの唇。何度も何度もされた口づけは未だに慣れることはなく、ただ甘い感情と刺激におぼれるのみ。
「それでいいんだ。ゆっくりでいいからもっと口に出してみてくれ」
ぎゅ、と言い聞かせるように男は女を抱きしめる。女は唯、その腕に縋りついて再び口を閉ざすしかなかった。
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