わからない。愛されると云う感覚が、わからない。
「今宵」
甘ったるいくらいの低い声で彼は私の名を呼ぶけどそれにどのようなそぶりで返せばいいのか分からなくて、ことが終わった後の頭ではどうやって考えればいいのかすらひねり出せなかった。ただ彼の逞しい胸の中にすぽりと入って、すり寄るだけしかできない。
――そもそも、どうやって愛されればいいのかすらわからない。誰かに愛されるというは、初めてだから。親の教育という名目でそういう情報は閉ざされて、集団行動という場でも嫌われ者だった私は学ぶ術がなかったのだ。自然なことかもしれないがそれがどうも周囲の中では異端だったらしく、必死に学ぼうとしても後の祭り。彼に「愛され」ても、溢れるほどの言葉の花束をささげっれてもどうしようもないのだ。一般的にいえば私は「面倒くさい」部類なのだろう。
それなのに、なぜか彼は私のことを「愛する」ことをやめない。何も返せないのに、どうやって返せばいいのかわからないのに。見返りなんてものはないのに、どうして彼はこういうことを続けられるのだろう。
「……どうして」
「どうしてって……何がどうしてなんだい?」
「どうして私にこんなことを、し続けていられるのですか?」
「愛しているからさ」
わからない。愛だけでこんなことがし続けられるなんて。そういうことを考える私は相当歪み切っているらしい。
「私、愛され方すらわからないしまっとうな恋愛の仕方とか、わからないからあなたにそういう類のものを返せる保障なんてないですよ」
「……メートルらしいな、そういうことを考えるとは」
「気にしてるんです。貴方は慣れてるようですけどその……あの、やっぱり私は」
「気にすんな、オマエさんはオマエさんのままでいい。わからんのなら学んでいけばいいさ」
ぽんぽんと彼の大きな掌が私の頭をなでる。……少しだけ、申し訳ないような気がした。
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