「さあ、こちらへ」
カリオストロは黒革に包まれた手で女の手を取り、優しい引力で自身の膝の上に跨らせるように座らせる。きょとんとしている女の口に丸々としたチョコレートを押し込んで女の下あごを持ち上げた。
「そのまま食べずに、このまま私の口元へそれをもっていってくださいませんか」
さあ、と男は猫背になり長い銀の髪で世界から女を遮断する。何も言えない女はただ男に言われるがまま顔を上に上げて背伸びして男の口元へ甘味を持っていこうとしたがあとわずかのところで届かない。男によって腕を抑えられているからだ。男――ましてや、サーヴァントの力に抗えるはずもなく、ただ藻掻くのみ。カリオストロはその様子を至近距離の特等席でわずかに口角を歪めた。
「名前、ああ、名前。そうです。その調子ですよ」
チョコレートで塞がれた唇にココアパウダーが広がっていく。女の口の端からはカカオ交じりの唾液が漏れ出してきた。男の力は緩められたからかすでに男の息が掛かる距離に女の顔が近づいている。眉を八の字に下げ目を潤まる。桃に染まった頬、言葉を塞ぐあまいもの。ゆっくりと二度男は瞬きをして改めて、懸命にチョコレートを口元に運ぼうとする女を見つめた。
「ありがとうございます。これで私も貴方も――このチョコレートのおいしさを共有することができます」
そういった後、カリオストロは目を開いたまま女の唇へ自分の唇を重ねた。
一気に顔を赤らめる女を観察しながら、舌を絡ませてチョコレートを溶かす。大きな舌と小さな舌がもつれながら、取り合う。角度を変えながら深く、深く味わい落ちていく。
「あ―――あ、ぁ、ナ…マエ」
「や、は、はくしゃ、や、ありょー、しゃ……」
互いの腕は、互いの胴を拘束して離さない。水音を立てながら舐めあい、そして銀とカカオの糸が二人をつないで切れた。
「名前、ここではきちんと名前で呼び合う決まりでしたよね?」
「ご、ごめんなさい。いつもの癖で……」
「では、もう一度。きちんと私の名前を呼んでくださいね。幸いなことに貴方が作ってくださったチョコレートはまだあります」
それと、きちんとアレッサンドロと呼ぶように。
男はお仕置きだといわんばかりに女の唇に重ねるだけのキスをする。そして再びチョコレートを女の口にはめた。
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