一夜限りの

煌びやかなダンスホール。そこにいるは、大勢の男女。
「……本当に私でよかったのですか?」
うつむきながら、女は傍らの男に問う。
「今宵じゃないと、僕は嫌だからね。なにせ、僕は君のことを信頼しているからな」

話は昼までさかのぼる。
「今宵,ちょっといいか?」
スティーブンに呼ばれた今宵は、整理していた書類から顔を上げて、声の方を向いた。
「如何しましたか、スティーブンさん」
「実はな、今追っている異界のブツについてだが、おおよその場所は分かった」
「あら、それはそれは……すごいです!さすがスティーブンさん!!」
喜色満面で少女から褒められた男は、眉一つ動かさず、さらに続ける。
「実は、それについてだが、どうやら持ち主主催のパーティがあるようで、その決まりが……」
スティーブンは、珍しく言葉を詰まらせる。何が言いたいか気になる今宵は、スティーブンの元へと駆け寄った。
「決まりがどうかしたのです?」
私にできることであれば、協力します、とやる気に満ちた目で少女は男の次の言葉を待っていた。まるで主人から命令を尻尾を振って待っている犬のように。そして、意を決して、スティーブンはパーティの決まりを告げた。
「男女ペアで、行くことになっているんだ」

そして今に至る。
ダンスパーティとはいえ、二人の距離は近く、未だそういった仲になっていない彼らにとっては表面上は冷静でいられても、内心焦っていた。
「ねぇ、スティーブンさん」
近くの彼にしか聞こえない声で今宵は問いかける。がやがやしている他の人の声にかき消されそうだが、それでも彼はきちんと答えを返した。
「なんだい?今宵、何か聞きたいことでもあるのかい?」
足は揃ってリズムを刻みつつ、スティーブンは耳元でそっと言った。吐息交じりのアルトに今宵は思わず甘い声を漏らしそうになるのを我慢して、疑問に思っていたことをぶつけてみた。
「何故、私を選んだのですか?このような場所なら、他に適役がいたはずです」
それは、恋するが故の自己嫌悪。彼女はスティーブンを思うが故に、自分は彼の隣にいるべきではないと定義し、そして遠くから見るだけにとどめていた。だが、彼は自分の領域に入ってくる。スティーブンの元で働かせたり、何かあるたびに彼と一緒に行動したり。

──何故、貴方は私の傍に寄ろうとするの。

彼が傍に寄るたびに、今宵はずっとそう思っていた。だが、そう思うと同時に、一緒にいたいという相反する感情も確かにあった。そして、その取扱い方が彼女自身にはよく分からなかった。

「そうだね、前に言った通り、信頼できるということかな」
目の前の男は相変わらずの笑顔で答える。
「信頼できる人なら、貴方の周りにもいるはずです、ほら、チェインさんとか」
そう、言いかけた瞬間、何か柔らかい感触が今宵の唇を塞いだ。頭がぼうっとする、そして、咥内の感触で、自分が今、スティーブンに深いキスをされているということを遅れて認識した。
唇が離されて、細い糸が二つの唇を繋ぐ。
「他の人の名前は、此処で出さないでくれ、今宵,君は、ただ1人の僕の女だ」
──嗚呼、私を置いていたのは
「貴方も、私と同じだったのですね」
ああ、という言葉が心地よく今宵の耳に響いた。

その後、きちんと任務を遂行し、翌朝、気づけば二人して同じ寝室にいたことを認識し、ひと悶着あったということはまた別の話。

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