番頭短編

刻まれる時

「――スティーブンさん、この包みは?」「ああ、これかい?」 スティーブンの部屋にて、女は小さな一つの包みに気づき、なるべく触れないように近づく。あらゆる角度から、まるで小さな子供の様に女は観察してみる。「これはだな……ちょっとした秘密のもの…

俯瞰夜景

 HLの夜に沈黙はない。毎晩毎晩飛び降りようとビルの屋上に上り、見下ろした底にて喧騒が途絶えたことは一度も見たことがないからだ。何処かしらで騒ぎとパーティ、まるで毎日がハロウィンのよう。そして故郷の夜景もたしかこんなのだったっけというほどの…

イミテーション・ライト

「星が見たい」 が唐突にスティーブンにおねだりをする。それは彼女にとっては珍しいことで、あまり彼にモノやことをねだるということがなかったため、スティーブンにはかえって新鮮に思えた。だが、ここHLでは星空というものを拝むことは叶わない。「そう…

雨に思う

 ───嗚呼、雨か。確か始まりの日も、このような豪雨だった。 ライブラの執務室から、一人女は窓の外を見る。雨音が心地よく響き、そしてそれは空虚な孔によく響いた。「珍しく、君にしては物思いにふけっているな」「ええ、貴方に拾われた日も、このよう…

一夜限りの

煌びやかなダンスホール。そこにいるは、大勢の男女。「……本当に私でよかったのですか?」うつむきながら、女は傍らの男に問う。「じゃないと、僕は嫌だからね。なにせ、僕は君のことを信頼しているからな」話は昼までさかのぼる。「,ちょっといいか?」ス…

逆行する思考回路

「君は、何故あのとき出てきたんだい?」 深夜、はスティーブンの部屋に呼ばれ、昼間のことについて色々尋問されている。昼間、血界の眷属と交戦し、発見者であるはピンチになった後で急いで血界の眷属と遭遇したということを連絡したのだった。 その後、駆…

実感するは、生

 一人、ゆっくりと自分の体の活動開始を感じて目を開ける。天井には昨日あったはずの死の輪っかがない。おそらく昨日訪れた恋人が撤去したのだろう。いつも通り自分の体が動くことを確かめた後、自分が今生きているという確証を得た。 ―――気づけば、生き…

泡沫の体温

「ねぇ、スティーブンさん。私がもし、明日死んだらどうしますか?」いつも通りの灰色の空をバックにして少女は言う。自分の死について笑顔で口にしているのだからスティーブンは彼女のことを恐ろしく感じてしまった。「……そんな想像するだけで恐ろしいこと…