注意
こちらのお話はカードシャーク終盤のネタバレが多分に含まれます。またゲーム内にない要素や人物などもありますので苦手な方は注意してください。
パリの路地裏を、女が駆けていた。手には薬を抱えて長いドレスの裾をものともせずにひた走る。ルイ十五世の栄華の光が及ばない迷宮のようなパリの小道を女は最初からたどるべき道を知っているかのように迷いもせず走っていた。
「――ムッシュ、ムッシュ」
とんとんとんと女はドアを叩く「入れ」という男の低い声が出たのを確認した後で女は静かにドアの向こうへと入っていった。
光はなく、淀んだ空気が漂う暗い部屋。女はその空気をものともせずにかつかつと男がいるベッドの方へと向かっていった。
「よくきたな、それでなんのようだ」
「ムッシュ・アードネス様、痛み止めの薬をお持ちしてきました」
「ほう……ありがとな。それでどこで買ってきたんだ?」
「もらいものでございます。サンソン家の方から事情を説明したら……こちらのお薬を、譲ってもらいました。シャルル君がとりついでくださいまして助かりました」
「ムッシュ・ド・パリか……。よりにもよってか……」
ぶつぶつと何かを呟いた後、アードネスはとんとんと傍らのステッキで彼女を呼び寄せる。女は顔を曇らせておそるおそるアードネスのいるベッドの方へと歩み寄った。
「ムッシュ……?」
女がそう言おうとした後、細い手首が男の手に掴まれてベッドの方へと引きずり込まれた。男の上に覆いかぶせられるように距離は近くなり、おしろいをつけていない女の肌は赤く染まっていく。
「いいか、俺はお尋ね者なんだ。目的を達成するまで絶対に死ぬことはできんのだ。この足ですら、俺が罪を被せられたが故に医者にかかることすらできなかったからこそ、失っちまったんだ。だからこそ俺が生きているということが漏れることは避けねばならんのだ」
淡々と男は自分の置かれている状況説明と、女がやった行動のリスクについて説明する。女はじっと自分のしたことともたらしかねない影響を即座に理解し、すこしだけ声を失った後で
「はい……ごめんなさい、ムッシュ。余計なことをしてしまいまして」
「でも、その気持ちは受けとらせてもらうぜ。ありがとよ」
にやり、とアードネスはぽんぽんと女の腰を撫でる。がらん、からんと家の外では白百合の栄華は永遠であることを誇るように教会の鐘がうるさく鳴り響いていた。
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