「――おや、今日も会いましたね」
ペンの音が鳴り響く夕暮れの図書室にて高い位置から声が降り注ぐ。背筋にむず痒いなにかが走るがその元を確かめるべく私は徐ろに振り返った。
「私です、ほら、先日貴方に助けていただいた貴方の教頭先生です」
自習中の生徒の邪魔にならないようにするためか、彼は静かに身をかがめて耳元で囁く。思わず声を上げようとしたが場所が場所なので浅く自分の舌を噛んだ。
「驚かせてしまって申し訳ありません。ですが……貴方に話があって来たのです」
近い、吐息がかかる。視界に反対色の瞳がグレーの色彩の中にあるからか余計にそれが際立って見えてチカチカする。舌にしびれがあるからか返事すらままならなくてただ首を縦に振るしかない。
「実はもうすぐ姪の誕生日なのですがまだプレゼントが決まってないのです。同年代である貴方に一つ助言を頂きたいのですが……」
姪。ああそうだ。彼には生徒会長である姪っ子がいるということは有名な話だった。体の底にまで届くようなテノールで彼はいう。なんて、普通のことをいっているはずなのにどうしてかやけに心臓の音がうるさく聞こえる。思考はたちまち麻痺していく。舌の痛みは消えていないので代わりにやはり首を一回だけ縦に振った。
「ありがとうございます。では明日の■時、■階の■■室にてお待ちしてますよ」
そういって彼は靴音だけ響かせて図書室から去っていく。暫くの間なにも聞こえないような心地でぼんやりと、棚の本を眺めるしかなかった。
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