───嗚呼、雨か。確か始まりの日も、このような豪雨だった。
ライブラの執務室から、一人女は窓の外を見る。雨音が心地よく響き、そしてそれは空虚な孔によく響いた。
「珍しく、君にしては物思いにふけっているな」
「ええ、貴方に拾われた日も、このような雨だったと思い出していました」
女の傍に、スカーフェイスがコーヒーを片手に持ち、静かに並ぶ。互いの顔は見ず、ただ声で傍にいると認識するだけ。
「名前もなく、行く当てすらなかった私を置いてくれた貴方、私に感情や、人としての在り方、あらゆるものの楽しみ方。全て貴方が教えてくれなれば、私は……」
「いいんだ。僕が君をライブラに置くよう頼んで、そしてこうして色々な人とモノに触れることが出来て、結果的に君は人になれた。ただ無為に異能力を使うだけの人じゃない。君は一人の人間だ」
一人の人間。その言葉に少女は自分が俗にいう「人」であることを認識した。
「人間……、ずっと私がなりたかった普通の人」
「いや、普通なんてこの街にはないからね。君は道具ではなく、人のように感情を出すことが出来るから、人なんだ」
それに、とスティーブンが空いている手で、少女の顔を自分の方に向けさせる。
「君がこんなにも愛らしい笑顔を見せてくれて、僕はそれだけでも嬉しいよ」
「……!」
慌てて少女は後ずさりをするも、後方へ派手に転んでしまう。ふわりとスカートが膨らみ、そして急激にしぼむ。そして盛大にしりもちをついた。
「いきなり何てこと言うのですか!」
「思ったことを言ったまでだよ。ほら」
コーヒーの入ったマグカップはデスクに置き、そして右手を女の方へ差し出す。
「お手をどうぞ、お姫様」
「いきなり心臓に悪いことは言わないでください……」
手と手が重なり合う。少女は、これがずっと繋がっていればいいのに、と思ってしまった。
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