「もう、限界です」
張り詰めた糸が切れそうな声で、女はいう。視線は目の前にいる男からそらし、それどころか顔すらも伏せていた。男はそれを許さないと言わんばかりに細い女の手首を優しく握りしめている。
「何度貴方が愛の言葉を囁こうとすれど、信じることが出来ません。故に、貴方の思いに答えることはできません」
「ああ、そうか……この思いは本物だっていうこと、信じてくれないのか……」
男はいつものような浮ついた調子の声ではなく、どこか芯のあるような声で女に語り掛ける。
「だが、俺は諦めないぜ? 何度あんたがその愛を拒もうとも、貴女が首を振るまで囁き続けるさ」
「――おかしな人ですね、孫市さんは。確かに私は貴方と行動を共にしている身ですが愛に答えるとまでは、言ってませんよ?」
女はまるで人とのつながりをあざ笑うかのように言う。されど男の手は振りほどかれることはない。さては、と孫市は勘づき女に畳みかけた。
「でも、貴女はこの手を振りほどいていない。なら、一度きりでいいから俺の愛を、信じてくれないか?」
「……」
「たった一度、それだけでいいんだ。もし、貴女が窮地に陥った時、必ず俺は助けに行く。間違っても我が身可愛さに逃げたりはしない」
「……」
「だから、その時にどうか―――俺の気持ちと問に答えてほしい。それでも貴女が信じてくれなかったら俺は貴女に愛を囁くのをやめる」
いつにもなく真剣な声色で、男は宣言する。女は思わず、男を見た。
「……本当、ですね?」
「ああ、本当だ」
そして女は、普段通りの冷たい調子で言った。
「分かりました、どうも逃げる前提でないのが少々引っかかりますが……その時がきたら、答えます」
「俺は逃げないぜ?」
女は、軽くうなずき男の手を振りほどき、孫市の前に出て今日の寝床へと足を進めた。
「……大丈夫だ、どうか、信じてくれといっても、そう簡単に信じてもらえないよなぁ……」
男も女の後を追い、歩き始める。どうなっているのかと男は少しだけ様子を見たところ、細い女の肩が僅かに震えていた。自分自身を抱くように腕を抱え、それでも自身の心を悟られまいと必死だったということは、男の目をもってしても明らかだった
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