孫市夢

孫市夢01

「……」 かたん、かたんと音がする。恐らく銃の手入れでもしているのだろう。そりゃそうだ。彼の生命線でもあり相棒でもあるのだから。私がこうして休んでいる間に彼はきっといつもこういうことをしているのだろう。彼に見つからないように再び目をつむる。…

月下の烏

「――――月、か」 ふう、と男は銃口にまとわりつく煙を吐息でかき消して空を見る。そこにあるのは空に浮かぶ白銀の円。空にはそれを隠すような雲はなく、ただ燦然と闇をほのかに照らしていた。「なあ」 男はぽつり、と言葉を吐く。ゆっくりと月から自身の…

嘘、だったりして

「、俺はあんたのことを愛してるぜ」 浮ついた言葉は低く滑らかな声と共に目の前の女に届けられる。声を掛けられた女はそれを日常の一つとして聞き流していた。「ああ、その変わらない横顔、時折見せてくれる優しい笑顔、君の全てが好きだ。だからどうか」 …

或る夜の一時

 夜、屋根の上にて智は歩きながら月を仰ぎみていた。白い光を浴びながら、くるりと時々回りつつ静寂の中靴の音を響かせていた。「―――ああ、とても―――」 それを地上から見るは、1人の男。「月下美人……いや、まるでこれは……」 かぐや姫か、と男は…

錯綜感情

「……よく、貴方はそんな言葉を吐けますよね。たとえそれが仮初だとしても」「いいや、本当のことを言ったまでさ。貴女が望むのならなんなりといくらでも耳元で囁くぜ?」「遠慮しますし、疑い塗れの言葉なんて聞きたくありません」 二人は、冬の小屋にて暖…

こたえられない

「もう、限界です」 張り詰めた糸が切れそうな声で、女はいう。視線は目の前にいる男からそらし、それどころか顔すらも伏せていた。男はそれを許さないと言わんばかりに細い女の手首を優しく握りしめている。「何度貴方が愛の言葉を囁こうとすれど、信じるこ…

いたずらの代償

「やあ、お姫様。今日もまた一段と……」「これ以上甘ったるいうわ言を言わないでください。孫市さん」 依頼終えた後の帰り道、二人は本拠地へと向かう途中、いつものように山道でじゃれ合いのようなものをしていた。孫市は慣れたように女の細い腰に手を回す…

後朝の口づけ

「───」 きりりとした寒さが朝を告げる。孫市は、少しだけ体を震わせつつも、むくりと起き上がり、傍らで安らかに眠る女を見た。「……まだ、跡は残ってるか……」 彼女の首元にある昨夜の名残を確認し、そっと指を這わせる。まだ寝ている女はぴくりとも…