「夏侯惇よ、お主は江琳雪に惚れているであろう」
「……玉雨5のことか、孟徳。確かに、この俺自信が惚れていることは事実だが、それがどうした」
夜、雨の空を仰ぎつつ曹操と夏侯惇は酒を飲んでいた。とりとめのない話をして、何事もなく飲んでいたら、いきなり曹操が夏侯惇へ従者に関することを突きつけてきた。はっとした顔で夏侯惇は曹操を見る。
「お主は、その思いを伝えぬのか?」
「……伝えればいいのだろうが、仮にも玉雨は従者だ。今の関係を壊すのはあいつの為にもならん」
「そうか、だが伝えようとも伝えられん時もあろう。それに何時までも思いを秘めてはお前自身が破滅することになる」
「……だろうな。それに、」
ひゅう、と冷たい風が隻眼の男の頬をなぞる。一杯の酒を一気に飲み、珍しく恐れを吐く。
「玉雨5は俺に忠誠を示している。故に俺が思いを伝えたらあいつは心の底からではない是と言うだろう」
「なるほど、つまり彼女の意思関係なく思いを押し付けそうで怖いということか」
「……ああ」
さああっと雨音が全てをかき消すように鳴り響く。曹操はぽつりと雨音に紛れる位の声で呟いた。
「玉雨5の字、確かお前がつけたのだったな」
「そうだが、何故」
「ふと、気になったのだ。お前が初めて琳雪を玉雨5と呼んだ日が」
「……すまない、孟徳」
空になった杯を夏侯惇は置き、曹操に踵を返した。
「何故だ」
「今話すと、玉雨5のことで憔悴してどうにかなってしまう。故に冷静に話せそうにないのだ」
声は珍しく彼にしては震え、何かを押し殺しているようだった。それを察したのか曹操は少しだけ笑い、「後で話してくれ。彼女に字を付けた日のことを」とだけ言った。
「ああ、孟徳」
そして夏侯惇はその場から去り、一人曹操だけが残された。
「──まったく、彼女も同じ思いを抱いていると知ったらどうするつもりなのか、夏侯惇は」
変わらず雨は降り注ぎ、未だ止まない気配がした。
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