駕籠に閉じ込めることはなく

「お前、何をしたのか分かっているな」
 深夜、夏侯惇は一人の女従者を問い詰めていた。昼間の戦闘にて、彼女は彼に向って飛んできた弓をその身で受けようとしたからである。幸い傷は顔にかすった程度で済んだものの、彼にとってはそれは耐え難く、かつ許しがたいものであった故にこうして彼女を呼んだのである。彼女は彼の問から逃げようともせず、凛とした声で答えた。
「はい、わかっています。私は唯、貴方様を護ろうとしただけです」
「ああ、だが俺は自分の身は自分で守ることが出来る。それにお前を失いたくないのだ。だからもう二度と、そのような真似をするな」
 重く告げられた事実と命。だが彼女はそれを否定するかのように声を張り上げた。
「ですが! 私はもう二度と、貴方様に矢が、矢が――」
「言いたいことは、分る」
 先程とは打って変わって残酷なほどに柔らかな声がした。女ははっと彼の顔をみるととても優し気な顔の男がいることを確認した。
「だが、お前が俺を護りたいと同じように、俺も愛しいお前を護りたいのだ。だから、命を粗末にするようなことをするな」
 夏侯惇は、細く傷だらけの手を取る。まるで慈しむかのように包んで、握った。
「頼む、どうか……」
「主様、気持ちは嬉しいのですが、それは……難しいことです。自分大事に、なんて出来そうにありません」
 女は顔を赤らめるも肩を落とし、手を柔らかく振りほどいた。それでも男は諦めず、女の体を引き寄せるように抱きしめる。
「なら、俺がお前をどれほど大切に思っているか、どうか―――知ってほしい。否、知ってくれ」
 まるで懇願するかのように、引き留めるように男は囁く。女は、ただ恐る恐る愛する人の逞しい背中に手を回した。

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