散り行く花

「あん……っ、そ、そこだめぇ……あ、あぁ……」
「こんなに腰を揺らしてダメというのかい? 下のお口からはこんなにも溢れているのによ」
 暗く様々な物が溜め込んである鬱蒼な迷路。その奥にいるのは二人の男女。女は手を適当な棚に預けてあられとなった腰を男の方に突き出している。その割れ目の下にある口に男は熱くいきり立ったそれを入れて、ぐちゃくちゃとかき回したり女の下腹部にあたる部分をこすっていたりしていた。女の服は半ばはだけさせられており、無地のブラジャーのカップからは白い珠がこぼれてる。その珠は男の無骨な左手によって変形させられていた。右手は留守というわけでもなく、蒼の豊満な腰をがっしりと抱き留めて女を逃がさないようにしていた。
「ちが……っ、でも誰か来ちゃう……」
「してと頼んだのはオマエさんだろう? それにここは基本的に誰も来ないといったのも蒼、オマエだ」
「んっ……」
 対する男の服はそこまで乱れておらず、しいていうなればズボンは剛直を入れるためにベルトは緩められており、ジッパーを下ろした箇所から取り出しているという形になっていた。秘密の場所を探すための探査機は奥へ奥へと進ませてまた戻るを繰り返してる。そのたびに洞窟は収縮を繰り返し、そしてまた潤んでいく。
「あっあっ……あ、あー、ちゃー……」
 腕の中で女は腰を揺らす。何かを乞うように、欲しがるように。しかしその答えを言えるはずがなく、ただ気持ちいいところをこすりつける動作だけ繰り返すことしかできなかった。

◆◆◆

「また、ここにいたのか」
 数十分前、ナポレオンは何か読むものがないかを探すために倉庫に入っていた。懐中電灯を携えて古本は何処かを捜索する。しかしめぼしい本は見つからずどうしたものかとふらふらしていたら数多の箱が積まれた山を背にうずくまっている女を見つけたのである。そっと光を当てるとさらに小さくなったので慌てて駆け寄ったところ蒼であることが確認されたのだった。
「大丈夫です。自分を傷つけていませんから」
「そうか……まあ無事でなによりだ」
 ほら、と男は女の細い腕を引っ張って腰をあげさせた。腕に包帯の感触はなく、本当に自傷行為に走っていないということに安心した彼はその辺の棚に懐中電灯を置いた後そっと女を自分の腕の中に閉じ込める。
「おおよしよし、ここに籠りたくなるくらいに哀しいことあったのかい?」
「……哀しいこと、ですか」
 少しの間、沈黙が流れる。雑然とした倉庫内の品は動くそぶりも見せていない。
「特にありません。ですが……」
「?」
 ぎゅ、と男は女を抱きしめる腕の力を強くする。その温もりに安心したのか蒼は小さく囁くようにして男に打ち明けた。
「その哀しいことを考えずに済む方法を一人で考えていただけです」
「そうか……偉いなぁ。でその方法はなんだい?」
「その方法がこう……なんといいますか、下劣というか……どうしてその考えに至ったのか自分でこう、自分を……」
「問いただしたくなる?」
「それです」
 よしよし、とナポレオンは女の頭を撫でてやる。下劣な方法で哀しいことを考えずに済む方法。男はそれについて聞いてみることにした。
「その方法はなんだい? オレは問いたださないから言ってみな、蒼」
 わさわさと男の左腕は女の背を撫でてやる。しかし女は顔の熱を誤魔化すようにして顔を伏せてしまった。
 ―――あ、だめだ。顔、顔見せられない。
 女はただ呻き、唇を噛んで自分の発言を反省する。きっと顔をあげてしまえば残酷な程優しい青い瞳が私を問いただすのだろうと女はぼんやり考えるがその暇すら現実は与えてくれるはずもない。
「で、その方法は?」
 男はもう一度優しく耳元で問う。何度か聞かれた質問の声色はとても優しく生クリームのように甘い。女は観念したのか蚊の鳴くような声でゆっくりと、口を開いた。
「……ま、交わりといいますか……愛を作るといいますか……」
「ほうほう、それで?」
 それでナポレオンは全てを察したのか声色がほんの少しだけ上機嫌になった。さらに男の腕の力が強くなる。蒼はしどろもどろになって、言葉の続きを作り出す。
「それで……その快楽でこう、その時だけ、こう……えっちなことしか考えなくて済むといいますか……」
 蒼は現実から逃げるように男から目を背ける。しかし手はコートを脱ぐために動き、重い布は地面へと落下した。そして少しだけ極地礼装の襟を開いた。
「つまりは、その……わたしと、ここで、えっちを……してくれませんか?」
 ナポレオンは腕を離し、女の体を吟味した。何度も抱いた愛しい女の体。美術品を鑑賞するかのように服に包まれた体を見る。女の顔は羞恥に塗れふるふると体の柔いところが震えている。まるで初めての夜を迎える時のような顔。男は今すぐにでも女に手を伸ばしたかったがほんの少しの理性がそれに待ったをかけた。
「……大丈夫かい? ここでして」
「大丈夫です。あまり人は来ないのでバレないと思います。それに……」
 蒼は意を決して小さいが芯の通った声で告げる。
「……はしたないこと、貴方としたいだけなのです」
 ぷに、とねだるように女は男に自分の胸を押し当てる。柔く当たるソレは男をその気にさせるには十分であるがやすやすとそれに乗っかるのはどういうものかとと思ったためナポレオンは我慢をした。
「へえ……つまりオレとそういったことをしたいというわけか。悲しみを忘れるために」
「……貴方を利用してそういうことをした上で自分のエゴを満たすんです。下劣といわずになんと言いますか……」
「いいや、それで悲しみを忘れられるのならいいさ。それに―――」
 男は女の顎をあげさせる。柔らかい女の唇が男の息がかかる範囲に引き寄せられる。男は自分の唇があたるかあたらないかのすれすれで止まり、女に告げた。
「―――もう既に、オレはオマエさんとやる準備は出来ている」

◆◆◆

 そして今に至る。深い口づけを交わした後はゆっくりとした愛撫。それだけで蒼はぐずぐずになり自発的に腰を男に差し出した。これ見よがしに男は自身のモノを取り出してゆっくりと女の中を堪能している。 
 どこからか持ち出したのか透明のゴムが傍らにあり、地面には白く濁った液が入っているゴムがいくつか地面に落ちている。互いの顔が見えない環境がそうさせたのか、それとも誰が来るのか分からないという背徳性が二人を燃え上がらせたのか分からない。すぅ、と男は女の首筋に顔を当てた後に匂いを嗅いでみる。
「……蒼の匂い、安心するなぁ」
「い、いわないでぇ……」
「いうさ、好きな女のことだから猶更……な」
 そう言って男はべろりと女の首筋を舐めあげる。ぴくりと女の体は跳ね、声にならない声が小さく漏れた。
「……ぁあっ」
「可愛い声出せるんだなぁ、蒼は」
「ちが、その……可愛くなんてない……」
「可愛いよ、蒼は」
 ほら、と男はわざと太い探査機を奥に突っ込んでやる。ぷちゅりと愛液があふれ出る音がすると共にきゅううと肉壁が締め付ける感触を男は感じた。思わず男は口角をあげ、目を細める。もっと彼女の鳴き声が聞きたくて左手で女の宝珠の先端をもてあそんだ。
「あぁ……ちが、あぁ……ひぅっ……」
 ちゅぷちゅぷと互いの腰が動く音がする。少しきつくなってきたのか男の口から
「ぐっ……何度もいってそれでいてま、だ、初めてのように恥じらうなんて……本当に恥ずかしがりやさんだ、なぁ……」
「そこまで、けーけんほうふじゃ、なぁ……いんです……」
「オレとしかこういうことしかしてないもんなぁ。ほら後ろ向いてくれ」
 男に促されるままに女は首を男の方にゆっくりと向けてみる。
「こ、こう……ですか……?」
 潤んだ瞳、ふるふるとした唇。赤く染まった頬。思わずナポレオンは女の乳房を掴んでいた手を離して蒼の後頭部にあてる。そして―――
「……んぅ、あぁ、あふぅ……」
「ぐっ、あ、うぅ……」
 ―――互いに貪りあうような口づけを交わした。互いの唇の味を確かめるように、互いの唾液を交換するように。ぱんぱんという音と共に互いの喘ぎ声が共鳴する。女が何かを言おうとすれども男はそれを阻むように角度を変えて唇を重ねた。
「―――っ、んんぅ……」
 ゆっくりと二つの唇が離される。銀の糸が細く細く伸びていく。男の大きな口がゆっくりと開かれて一つのことを口にした。
「今、オマエさんは何を考えてるかい?」
「……あ、貴方のこと……だけです……」
 男の問いかけに女は躊躇いながら答える。男はそれに満足したのかぎゅっと女の細い体を抱きしめる。
「それはよかった……ほらもっと、もっと欲しいかい?」
「……ウィ、ムッシュ」
 そして背徳の時は過ぎていく。ただ二人は雑多な空間でアイに溺れていった。

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