傷跡

「私を乱暴に扱ってください」
「……ダメだ。婚約者を手荒に扱うことは出来ない」
 夜、ノウム・カルデアの或る一室にてナポレオンは自らを召喚したマスターが全裸で、土下座している姿をうっかり目撃してしまった。話があると昼頃彼女から聞いていたので何があるのかと色々空想しながらドアを開けた瞬間に、この光景が彼の目に飛び込んできたのだ。何もなかったことにして黙って出ようかとしたときに乱暴にしてくれとの申し出が女から提示され、今に至る。
「……どうしてです? 貴方の思いのままに私を犯せるのですよ」
「オレはなぁ、あくまでするのなら合意の上でお姫様を蕩けさせたい方なんだ。ただ欲をぶつけて放つなんて、空虚すぎる」
 ふう、と男は息をついた後しゃがんで女の顔をあげさせる。女は恐る恐る男に促されるまま顔をあげた。
「―――泣いていたのか、蒼」
 涙痕は両頬を縦断している。両目は潤んでいて先ほどまで悲しみに沈んでいたらしい。唇は何か出てしまうのを恐れているのか自分自身で噛んでいる。蒼と呼ばれた女は何も言わずに、ただじっとしている。男はおもむろに立ち上がったあとシャワー室にあるバスタオルを持ってきて彼女に羽織らせた。
「ほら、とりあえずこれを羽織れ」
「……はい」
 そしてナポレオンは彼女の前に再び座り込む。変わらずに三つ指をついた状態の蒼があまりにも彼からしてみれば見ていられなくて、そっと肩を押すようにして女の状態をあげさせた。
 白い肌にたわわに実った二つの果実。少しだけ男はそれに目を奪われたが羽織らせたバスタオルの下から伸びる腕に視線が移される。右は手の甲に令呪があるだけで何もなかったが、左の方は別だった。細く腫れあがった跡がいくつも白い肌の上にあったからだ。
「……また、やったのか」
「ごめんなさい。少し思いつめまして」
 男はそっと女の左腕を取り、腫れ跡に触れる。
「安らぐんです。こうして自分で自分を傷つけるのが。痛みがあるととても楽になれるんです。矛盾してますけど」
「……蒼、今日は何でやったんだい」
「シャープペンシルです。芯を抜いた状態で力を込めてなぞるんです。とても痛かったですがその分、落ち着きました」
 ああ、と男は心の中で嘆息した。血の出るような行為から外れたのはある意味喜ばしいとうべきか、いや、自分自身をいじめるという行為をしたという事実は変わらない。自分自身をいじめないと落ち着かない性質。ナポレオンからしてみればその光景はとても見るに耐えがたく、そしてまた彼女の癒えない跡がそうさせているということを知っている。
「結構久しぶりにやったので少し手間取りましたが」
「今日までは抑えていたのかい?」
「はい、傷を見られるのが怖くて……。貴方と夜を共にするときに目に入るでしょうし」
 光のない女の目は愛する人を視界に入れる。蒼の傷だらけの左腕は未だにナポレオンによって繊細なステンドグラスを扱うかのように触れられている。無骨な手は傷跡を覆い、何も言わずにただ赤く腫れたそれを撫でていた。
「……っ」
 ほんの少し、触れられただけで女は顔を少しだけ歪ませる。ただのひっかき後であろうとも、痛覚は正常に作動しており否が応でも今、蒼という女が「生きている」ということを実感させていた。
 そして、その痛みは心が淀んでいる今は一種の快楽になっている。痛みが欲しい、愛する人からの痛みが欲しい。故に彼女は「乱暴に」扱われることを望んだのである。しかし彼女の心を見抜いたのか男はそれを断り、それどころか彼女を優しく扱っている。
「あー、ちゃー。苦しいです」
「何が、苦しいんだい?」
 左腕を撫でていた逞しい右手は女の肩へと渡っていく。ぴくりと女の体は跳ねて何かを言おうとしたが、今は彼の問いに答えるべきと判断してゆっくりと口を開いた。
「あ、貴方の、触れ方と……その、心遣いといいますか……」
「まだちょっと慣れないか?」
「……はい。あまりにも優しすぎて、その、隠し事とか裏切りとかしてたのにどうしてもこう、怖いのです。非常に悪いたとえですが、こう、未だ毒のようななにかといいますか……」
「毒、ねぇ……」
 ほんの少し考えた後、ナポレオンは何かをひらめいたそぶりを見せた後、彼女の体を抱きしめる。柔い肌が男の逞しい体にあたるがそれを気にすることはなく、耳元で低く撫でるように囁いた。
「なら、その毒におぼれるかい?」
 は、と女の吐息が漏れる声がした。きゅ、と男の逞しい腕の中で縮こまった後でそっと男に縋りつくようにしてもたれかかる。
「……ください、その毒を私にください。中毒に、させてください」
 振り絞るような声で蒼は懇願する。男は女の両肩に手を置いてゆっくりと優しく自分から彼女を引きはがした。
「ああ、いいさ。だがその代わりといってはなんだが―――」
 しっかりと男は女を見る。数拍置いた後男はおもむろに立ち上がったと思ったら女を抱き上げて所謂『お姫様抱っこ』をした。
「―――今だけは、オレのことだけを考えてくれ」
 そしてすぐそばにあったベッドに蒼を寝かしてやる。ぽすりと寝台の上に乗せられた彼女は光のない目で男を見た。
「ナポレオンさんのことずっと考えてていいんですか?」
「ああ、今いる目の前のオレのことだけ、考えろ。いいな……?」
 男は女に覆いかぶさり、舌を絡ませるような口付けをする。深く深く唾液と唾液が絡まる音がする。ぴちゃくちゃと絡まる音がよく響く。
「ん……あ、くぁ……」
「ああ、とても甘いな。オマエさんの口の中は……前に何か食べたかい?」
「食べて、ませぇん……」
 食べてないのにこんなにも甘いとは。やはり好きな女であるからこそ甘く感じるのかという考察を男は脳の片隅においやって吐息と吐息の口移しを続行させる。酸素が枯渇してるからか蒼の細い腕は男の逞しい体に絡みついた。
「そんなのオレのことが欲しいのかい?」
「ちが、あの、その欲しいというのか分かりません……が……」
「じゃあ……こういうのはどうだい? メートル」
 男は左の手にある無骨な指で女の宝珠の先端をピンと弾く。ぐ、と女は声を漏らそうとしたが唇を噛んで堪えた。
「あ、ん……っ」
「強情なお姫様だな……そういうところもまた可愛らしいが、素直になって気持ちいいことに溺れちまうのも悪くないと思うぜ? 蒼」
 ぺろり、と女の耳元を撫でてやる。ぎゅ、と女は思わず男の体を引き寄せるかのように抱きしめた。服越しに男の鍛え上げられた体の感触と、身の詰まった足のぬくもりが伝わってきている。そして―――秘所付近には熱く、臨戦態勢となっているナポレオンの砲身が当たっていた。しかし蒼はその指摘を出来るはずなくただ理性と快楽の内なる戦いを自分の中でしていることしか出来ない。初めての時以降彼から教わった「気持ちいい」ことと彼女自身に根付いてしまっている「はしたない」こと。彼女はどうすればいいのか分からずにただ堪えることしか出来なかった。
「あ、耳……」
「ほーら、まだ恥ずかしがっているのかい? ならもっともっと蒼の体に聞いてみようかね」
 ナポレオンはおもむろに彼女から離れた後、蒼が横たわってるベッドの横に立つ。
「じっと、オレを見てくれ」
 そういわれた蒼は言葉通り彼の顔を見た。しかしどういうわけか白いズボンにてその存在を主張している砲身に目がいってしまう。それに彼が気づいたのか
「……そこを見るなんて蒼は随分と欲しがりさんなんだな」
 と蒼に近づきながら言った。布にしみてはいないもののその大砲は今か今かと発射されるときを待ち望んでいる程いきり立っている。
「ちが、違います……! あの、そのどうしても目が……行ってしまうといいますか……」
「大丈夫だ、欲しくなったらいつでも言ってくれ。望むところに入れるからな」
 ぷちぷちと、かちゃかちゃとナポレオンはゆっくりとした動作で自分の服を脱いでいく。サーヴァントである以上服は一瞬で脱げるものではあるがそういうことをせず、自分の手で自ら脱いでいく行為を見せつける。ゆっくりと彼の傷だらけの肉体があらわになっていくたびに蒼は息をのみ、目をほんの少しだけ輝かせた。
 ―――あの逞しい体に、抱かれるんだ。
「あー、ちゃー……。あー、ちゃー……」
 手を伸ばしそうになるのを必死に堪える。ジャケットとジレと白いシャツが地面に落ちる。現れたのは特徴的な胸の傷二つ、腹筋あたりにある一本の傷、太い二の腕にある火傷と切り傷と銃創。女の傷のそれより深く、多く一体どれほどの修羅場と戦場をかけたのかを空想させる彫刻のような男の体がそこにはあった。
「あ……」
「まだ、我慢しろ」
 かちゃかちゃと男はゆっくりとベルトを外す。鷲の意匠が施されたバックルと共に革のベルトは地に落ちた。丁寧に贈答品の包装紙をはがすように男は白いズボンを脱いだ。
「―――あ、貴方……」
 彼女の前に現れたのは太くいきり立った大砲だった。既に熱を帯びており今か今かとその弾を放つ時を待っている。それはあまりにも立派であり、皇帝である彼が所有するものに相応しいくらいに堂々としていた。
「もう、こんなに……!」
「そりゃあオマエさんと触れ合ったらこうなっちまうさ」
 何かにとりつかれたかのように女はゆっくりと起き上がり、その大砲の手入れをしようとしたがそれは男自身に止められる。
「だめだ、まだオマエさん気持ちよくなってないだろう?」
「で、でも……」
「ほら、いうとおりにしてくれ」
 言葉を飲み込ませるようにナポレオンは口づけを女に落とす。女は彼の口づけを飲み込むように角度を変えつつベッドに再び沈んでいった。それを確認した男は口を離す。
「あ……」
「ほら、お姫様は好きだよなぁこういうの」
 ぺろり、と男は自分の唇の周りについた蒼の唾液をなめとる。青い瞳は細く弓なりに歪む。低く響く声は蒼の体の芯を疼かせた。
「キス……とてもスキです……なぽれおんしゃんからされるのスキ……」
 まるで息が漏れるように女は云う。あ、と声を漏らした時には時すでに遅く男は目を輝かせてまた彼女の上に覆いかぶさった。
「それなら、もっともっとやらにゃあいかんよな?」
 へ、と蒼が間抜けな声を出したと同時に男の大きな口づけが柔らかい肌に降り注いだ。胸から下腹部へ、そして両足。ただ触れるだけのキスではなく、吸いつくようなキス。
「あ、やぁ……あー、ちゃー、そこに、あ……っ」
「気持ちいいのは分かるがちょっと我慢してくれ。いい跡がつけられなくなる」
 すり合わさる足、ゆっくりと動く女の腰、湿った吐息、肌に出来た男の口づけの跡。蒼の体はじわりじわりと甘い感覚に全身が浸食されていく。しかし全てが全て強烈なものではなくどれもが優しく降り注ぐものばかりであった。すると当然物足りなくなる訳であるがそういう類のことを蒼はまだ言葉で出力できるはずがない。しかしナポレオンはその彼女の習性を分かっていてかつ、体の動きを常に確認をしていた。故に男は女をその気にさせるべく作戦に出る。
「触れられるの大好きなんだな、蒼は」
「あ……、は、はい……」
 顔を反らして彼女は答える。
「だからこんなにも足をすり合わせたり腰が動いたりするんだな……。体はこんなにも正直じゃないか、可愛いなぁ」
「あ、そんなぁ……」
「ほら、今はオレたちしかいないからもうちょっとだけ大胆になってもいいんだぜ?」
 例えば、ココとか。
 そういって男は彼女の右宝珠の先端を自身の口に咥えた。れろ、と大きな舌が存在を主張していた先端を舐めた。
「ん―――っ!」
 きゅ、と女は体を縮こませる。ちらりと男の方を見ると自分の乳首をおいしそうに口に含んでいた。
「あ、吸っても何もでな……あぁん!」
 ぎゅ、ぎゅと足を男の体に絡ませる。ぬるぬるとしてきた大砲が彼女の体に当たる。
「あーちゃー……あ、おっぱい、おっぱいすっちゃ、あ……あぁ……!」
「……やっと言えたなぁ。蒼。こんなにもよがって縋って最高じゃないか」
 ぱぁ、とナポレオンは女の胸から口を離す。そして男は女の上で起き上がり、細い彼女の右手を取り自分の左胸に当てさせた。
「オレの体、どう思うかい?」
 室内灯を背にして男はそう問いかける。逆光にはなっているものの傷だらけの肉体を目にした彼女は少しの間、息をのんだ。
 ―――逞しくて、傷の数だけ誰かを守ったようで、頼もしい貴方。
「あ、あ……」
 男の胸の感触が伝わってくる。熱くて、温かくて安心するような貴方。ゆっくりと蒼は男に向けて体の賛辞の言葉を紡ぎだした。
「とても、逞しくて……その傷が愛おしくて、誰かを守った証のようで……綺麗で……だ、だいす、き、です……抱かれるたびに、その……あんしんするといいますか……」
「ありがとよ、マドモアゼル」
 途端、ゆっくりとナポレオンの体が蒼の肢体に重なり合う。
「―――――っ! あ、貴方……あ、あぁぅ……」
「そんなこと言われちまったら沢山抱きたくなっちまうじゃないか……!」
 再び深い口づけが交わされる。今度は互いに舌を絡めあい唾液の交換を激しくする。下の方では太い足と細い足が絡み合い、熱い砲身は女の割れ目を撫でていた。
「あ、アーチャー……その、つんつんとなんか……あたって……」
「さぁ、なんだろうなぁ」
 くちゅくちゅと下の口から水音がする。砲身はそれに突っ込むことはなくただ割れ目を謎り、蕾をつんつんと触れていた。そのたびに女の口からさらに大きな声にならない声があふれ出す。
「あ……だめぇ……あれが、つんつんあたって……あたっちゃってるの……」
「アレがどこにあたってるんだい?」
「あ、いじわる……ですぅ! 分かってるくせに……」
「きちんと言えたらご褒美をあげるつもりだったんだがなぁ……」
 ご褒美。その言葉を聞いた蒼は口を噛んだ後にゆっくりとその答えを言った。
「……アーチャーの砲身がぁ、私の敏感なとこあたってます……」
「んー……今ここに宝具の大砲はないしなぁ……。それに敏感なところってどこだい?」
 ほらほらと言わんばかりに男の熱いそれは女の割れ目をすりすりとなぞる。くちゃ、と割れ目から透明な液体があふれ出した。
「……アーチャーの、その……アレが……私のに……あたってるの……」
「アーチャーって誰のことだい? それにまだまだ分からないから具体的な名前を言ってほしいなぁ」
 低い声で囁く。耳元でそう囁かれた蒼は全てを観念したのか上ずったような甘い声で小さくいった。
「なぽれおんしゃんの、おちんぽが……私の、わたしのくりちゃんに、つんつんあたってて気持ちいいの……」
 ハハ、と低くくぐもった声が聞こえる。ナポレオンは大砲の先端を割れ目に当てた。
「きちんと言えて偉いぞ、マドモアゼル。自分の思ったことまでいうことが出来た蒼にはご褒美だ!」
 喰らえと言わんばかりに大砲が女の中へと沈んでいく。にゅぷりと入っていったそれは奥まですんなりといった。
「―――――――っ!」
 びくびくと蒼は入った拍子に到達した。ずっと待ちわびていたそれ、何度も入れられたそれ。女は歓喜のあまりに震え、中にある男の大砲を逃がさないように男の腰を自分の足で絡み取った。
「あー……あーちゃ……、あーちゃ……?」
「まさか入れた途端にいくなんてなぁ。そんなに欲しかったかい?」
「は、はい……! ずっと、ずっと忘れられなくて、あ、ああ……んっ」
「言葉にできないくらいうれしいか、そうかそうか……!」
 彼女の中が、男の砲身に合わせて形作られていく。自分の体が愛する人仕様に変化していく瞬間を蒼はただ歓喜のまま感じていた。
「―――動くぞ、蒼」
 低い声でナポレオンは告げる。それと同時に重い一突きが彼女を襲った。
「―――あぁんっ!」
 一突き、また一つ。ぱんぱんと規則性のある音が繋ぎ目から鳴り響く。そのたびに蒼は軽く達し、しがみ付くように男の体を抱きしめる。
「あぁ、そこは……あ、やぁ……あっ! あー、ちゃー……すき……好き……」
「オレもだ……蒼……こんなに締め付けて離さないなんて、最高だな……ぁ」
 ぱんぱんぱん
 くちゅくちゅくちゅ
 ぎしぎしぎし
 夜の音が重なり合い激しさを増す。女の目は潤み、顔は紅潮している。先ほどまで乱暴に抱いてくれと懇願した人と同じ人とは思うまいとナポレオンはどこかで思いつつも、はちきれそうなそれを深く出し入れする。
「しゅきぃ……だいしゅき……なぽしゃ、あいしてる……あ……しゅき……」
「嬉しいなぁオレも大好きだ、蒼……っ! こんなに素直で、愛らしいオレの婚約者……!」
「あぁ、こんやくしゃ……私が、あなたの……うれし……っ!」
 一層しがみ付く強さが強くなる。離れたくないと言わんばかりに女の中は大砲を締め付ける。
「そうだ……だから安心して、オレのことを……思ってくれ……!」
 大砲が、ひときわ強く女の中を突く。ざらざらとして、何度も何度もこすった箇所。
「あ、あーちゃ、あ、あぁ……っ! あ、あああああっ!」
 堪えていた嬌声が、絶頂と共に漏れ出した。
 それと同時にきゅうと中が男の大砲を締め付ける。
「ぐっ…っ、出すぞ、受け取れ……!」
 男は、女の奥に白く濁った砲撃を放つ。決して逃がさないように抱きしめて長い長い砲撃を繰り返した。

◆◆◆

「……」
 その後何度も夜戦を繰り返し、互いに互いの跡を残しあった後、男は思考を切り替えるために葉巻に火をつけた。煙で灰を満たし、息を吐く。葉巻置きに葉巻を置いた後傍らに眠る女に目を向けた。
「こういう時でないと、好きと言えないんだなオマエさんは」
 事後の疲れに負けた蒼の黒い髪を男はそっと撫でてやる。もし、彼女が素直に好きと言えたのならという空想に思いをはせつつ男は再び葉巻を手に取った。

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