忘れない。忘れることはない。あの北欧異聞帯のことは、焼き付いている。
たとえあのときの「彼」とは別の彼であろうとも思い出の再生は止めることはできない。
「アーチャー」
「どうした、今宵。何かほしいものでもあるのかい?」
「……いえ、そういうものではなくて……」
嘘、私がほしいものは彼の声とか愛とか全てとか、そういうもの。このカルデアのお仕事が終わったらお別れになることはわかっているはずなのに、どうしても彼がいないと孔があいてしまう。いてほしいのに、それはできない。願ってはいけないのだ。
「……やっぱいいです」
「んー、そう言われると余計に知りたくなっちまうなぁ。いってご覧」
そういって彼は私の手を取って、令呪のある甲に口づけをした。温かいものが触れると同時に、何かが弾ける感じがした。あつい、からだが、あつい。
「その、いってもしょうがないと……あ、あっ」
ぐっとたくましい腕に引き寄せられ鼻腔に煙の匂いがかすめた。そして瞬く間に私に口づけの雨が降ってくる。
髪、額、頬、唇、手のひら、首筋。
青い瞳は澄んでいて、その目で私をじっと見つめている。こんな痴態を焼き付けられるのは、こそばゆい。
「や、やめ……」
「やめんさ、欲しい物をいうまでは」
「ご、ごめんなさい、その、いいます、いいますから! 欲しい物!」
「ん、そっか」
ぱ、と彼は首筋から離れる。そしていつもと変わらない笑顔で彼は何がほしいかと問うた。
「……その、願ってはならないことだと思いますが……私は、あなたとずっと一緒にいたいのです」
彼の反応が怖くて目をつむる。少しだけ静かになった後、くつくつとした声が聞こえてきた。
「……やはり言わないほうが良かったですよね、なんかごめんなさい……」
「いやいやいやそういうことじゃないんだ、だから目をあけてくれメートル」
言われたとおりに目をあける。いつにもまして柔和で優しい彼がそこにはいた。大きな手が私の頭をふんわりと撫でている。
「単純に嬉しかったんだ、お前さんからそういうことを言われるのが」
まあ、普段は恥ずかしがり屋さんだからなぁと彼は低く、耳元で囁いた。どくんと心の臓が脈打つ。そして――これから起こることは容易に想像はついた。
「まぁ、それならお返しをせにゃあいかんよな。普段から伝えてはいるがまぁ改めて……」
再び、彼の大きな口が私の口を塞ぐ。その後すなおにされたのは、また別の話。
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