煙草と口さみしさと快楽と

「―――ふう」
 一服、誰もいない部屋でオレは葉巻の煙を味わう。ここのところずっと子どもの姿をしたサーヴァントやフィアンセ――マドモアゼル、そしてタバコの煙を忌み嫌う人たちとずっと一緒にいた故にいわゆる禁煙状態になっていたが、色々なことがひと段落してやっと一人でゆったり吸うことができるようになったためオレは久方ぶりの煙の時間を味わっていた。手持ちの葉巻カッターで端を切り落とし、切り口に火をともし灰の様子を見つつ煙をくゆらせる。嗚呼、久しぶりの煙の味はなんたる美味なことか! オレは逸る気持ちを抑えつつ、再び葉巻を咥えた。
「……マドモアゼル」
 ふ、と無意識に口からマドモアゼルという単語がこぼれてきた。彼女はタバコを吸わないがなぜだかオレはあの彼女のことを思い浮かべたらしい。まだオレの思考はさえわたっていないのか、それともさえわたっているからこそ口をついたのか。その答えは葉巻の煙に今はまかれているらしい。咥内を舌でかき回し、煙の味をかみしめた。
 その時、オレは新しい何かを見出した。なぜだか、葉巻が好きな女の指に見えた。色は少し違う上に曲がりはせず、そして煙も出さず細くない上に血も出ない。それにも関わらず何故か葉巻が彼女の指に見えたのだ。
「オレは、疲れてるのだろうか」
 そういってオレは葉巻を咥え、火を絶やさぬよう吸い続けた。あの時あの場所で陥ってしまったピンチ――魔力切れの時、苦肉の策で彼女の血を彼女の指から味わったということを思い出す。あの時の彼女は顔を赤らめて、オレに血が出た指を差し出した。彼女自身を傷つけるなんてあってはいけない。ああ、あってはいけないはずだ。だが――なぜだか、フィアンセのものを取り込むという行為がどこか甘美で背徳的で、このままずっと味わってしまえば文字通りの中毒になりそうなくらいにはとても美味であったことは覚えている。
 ――ねぇ、ナポレオンさん。その、私の……おいしい?
 鈴のような女の声、痛みと好きな男に舐められているという事実からやってくる淡い気持ちがそうさせているのか、彼女の顔はとても赤く熟れていた。このまま食べちまえばきっと美味しいドルチェになりそうで、赤いソースどころか甘ったるい蜜まで残さず舐めちまいそうだった。だが、流石にそのまま舐めつくして、食べつくすという状況ではなかったからオレは精いっぱい我慢して「Oui」と答えるしかできなかった。こうして色々思い出すと何故か胸に穴が開いたようで、謎の食欲のスイッチがかちりとオンになる感触がした。
「……さてと」
 葉巻の灰はすでに一センチほど浸食していて、ぽんぽんと落とせばすぐ落ちそうなほどだった。備え付けの灰皿に灰を落とし、ぐしゃりと葉巻の火を強引に消す。そして部屋を出てオレはマドモアゼルを探しに行った。

「ナポレオン? どうしたの?」
「ああ、オマエさんか……まあ、ちょっとな」
 愛しい人はすぐに見つかった。話によると一人で映画を見ようとしたがポップコーンを調達しようとしていたらしい。もう完全に彼女はくつろごうとしているからかゆったりとした服装になっている。隙間から、ほんのりとした色遣いのランジェリーが見えた。
「それよりマドモアゼル、ちょいとオマエさんのところに遊びにいっていいかい?」
「え、いいよ? それよりナポレオンも映画見る?」
「ああ、いいさ」
 あっさりと彼女の部屋に入る許可を得られた。少々拍子抜けしたが、恋人あるいはメートルの細い肩を抱いて映画を見るという行為に浸れるなんて、なんといい夜だろう! そして場合によっては彼女の甘ったるい蜜をこの舌で味わえる。オレはその欲を後ろ手に隠し、彼女の後ろについていった。
 キャラメル味のポップコーンを調達し、石鹸と甘ったるい香りが入り混じる彼女の部屋に入る。そして……映画を楽しんだ。

「あっ……あ、ああ……」
 そこから先は、ただ成り行きだった。選んだ映画の中に甘ったるいベッドシーンが入っていたことが発端で、何か言いたげにうるんだ眼をオレの方に向けてきたから抱いていいかと問うたら彼女は恥ずかし気にこくり、と頷いたのでそのままオレはマドモアゼルの服を一枚ずつ脱がせて、抱いた。ただ執拗に彼女の突起と柔肌の感触を楽しみ、唾液、愛液の味を舌で感じていた。やはり彼女という体は甘ったるくて癖になりそうだ。
「や、なぽれおん、しゃ、ん……」
 ふっくらとした足をじたばたさせて快楽から逃げようとする様は初心で余計にオレの何かをかき立たせる。足の付け根を押さえつけて、綺麗に剃られた割れ目から漏れる蜜をソフトクリームを味わうように舐める。舐めた。
「ああ、うん、やっぱり甘いな……」
 じゅるじゅると水音が彼女の割れ目から聞こえてくる。ちらりとテレビの方を見たら既に色ごとのシーンは終わっていたがそのことを気にせずに彼女はただ、ずっと色事特有の快楽に声をあえいでいる。
「……あ、なめちゃ、へぇんになっちゃう……」
「大丈夫だ、安心して変になってくれ。今夜のことは絶対言わんからな」
 そしてオレたちは溶けていく。甘い蜜を味わい、その中にlait……ミルクを注いだ。オレたちはそれを味わって――大切に、なんどもなんども味わったのは別の話。

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