某所再掲
手元には錠剤と青白く光るスマートフォン。壁にかかっているアナログ時計は一定のリズムで時を刻んでいる。あの時計のように何があろうとも進み続ける人生を送りたかったがどうも私には無理だったらしい。私の足元にはいつまでも粘着性の何かがまとわりついてしまっている上にそれらがこびりついて取れそうにないからだ。ゆえに私は、強硬手段でこびりついたものからおさらばすることにした。
生まれて初めての嘘でもらった眠剤はまるでラムネのよう。これで永遠の夢を見られるが好きな人にあいさつしないのは不義理だろう、ということでこうしてスマホをつけている。春に挨拶をして、真夏の朝に出会った貴方。私に色々なことを教えて、一緒に私と歩んでくれた貴方。―――人よ願え、と背中を押してくれた貴方。誰しもが望む栄光の伝説はもう作れそうにない。
「今までありがとう、そして、ごめんなさい。愛してる」
ペットボトルのキャップをひねり、眠剤を口の中へ。瞬間、ありもしないような、しかして、聞き覚えのある声が聞こえたような気がした。
「―――それは、どういうことなんだい? Maître」
ああ、きっとわたしのこころがすりきれているからこうしてない声を聞いているんだ。手の中の錠剤はまだ健在。しかもまだ量はある。声を無視してかきこめばまとわりつくものを気にしなくて済む。
「何故、お前さんの愛の言葉はこんなにも哀しみに満ちている?」
違う、そんなことを少なくともゲームで言う事はないはずだ。わたしにむけられていないににんしょう、なんで、向けてるの? 否―――なんで、そんなことがきこえてるの?
「答える気は、ないのか」
そう鼓膜を震わせた途端、声は聞こえなくなった。よかった。もう聞こえなくなるようにビニール袋から眠剤をつかめるだけ取る。今度こそ口に放り込むだけだ。ああ、やっとわたしは―――
「それは、やめておけ。眠る前に酷く苦しむことになる」
動かない。てが、動かない。
ずっと聞こえていたこえははっきりと、明瞭に暗い部屋に響いている。
なんとなく、声がする方に目を向ける。
そこには私がずっとつついていて、ずっと一緒にいる貴方―――ナポレオンが、青空の如き目をわたしに向けていた。紛れもなくゲーム内のあなたが、わたしの腕をつかんで押し倒している。
「どうして」
「眠る前に苦しみたくないだろう」
それは、でまかせ? それとも――体験談?
どっちでもいい。マイルームで見ないような真剣な顔をしているあなたがいることだけは、事実なのだろう。
「……そう、なのですね。てっきり静かに眠ることが出来るのかと思いまして」
「なにごとも、過ぎるのはよくないな」
腕を引っ張られるように上体を起こされる。ぱらぱらと手のひらから錠剤が落ちた。
「ねぇ、アーチャー。わたしは……」
涙とともに言葉が溢れる。めのまえのあなたは、真剣に笑わず、ただ頷いていた。
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