昼休み、教頭先生に呼び出されて入った時にあった机の上には丁寧に赤のペイズリー柄の紙で包装された四角の箱。目線を上げるとその色と同じネクタイをした教頭先生が私を凝視している。
「答えてください。何故これを持ち込んだのですか」
答えられるはずがない。何せこれは、いつもお世話になっていてかつ大好きな先生にだけ贈る予定のものだったのだから。故にこうして二人きりの教室で刑事ドラマさながらの取り調べを受けている。学業に不必要なものを持ち込んで、それが露見しただけのことだ。当然といえば、当然である。それはそれとして――いつ、バレた? ああいや、私自ら先生にチラ見せしたからほぼ自白したようなものか。
「名字さん、答えてください。たとえ今日がバレンタインデーであろうともこのようなものを持ち込むのは……いけませんねぇ」
ぐ、と先生が身を乗り出して私の顔を覗き込み、鮮やかな双眸が問いかける。吐息が私の肌を撫でたと思うと太い指が私の首元に手をかける。
「一体、誰に差し出す予定だったのですか? 正直に答えなさい。先生は怒りませんからね」
ほら、と先生は私のネクタイを手に取りぐい、と散歩する犬に対してするように優しく引っ張る。一気に近づいた先生との顔の距離。まずい、ここでは、見られたら色々な意味で大変なことになる。そのうえ信じられそうにない言葉まで、ある。声色こそ非常に穏やかであるがどこか低く這うように聞こえる上に先生の瞳がさらに鮮やかに、ぎらりと光った。
ああ、もうこれは正直に言うべきだ。もう、いうしかない。―――これは、先生宛でした。
途端、ネクタイを握っていた手は離され瞳の輝きも落ち着いた、ように見えた。
「この私に、でしたか……ああ……そうですか、そうですか……それは、申し訳ありませんでした」
徐に瞬きをして、机上の箱に目を向ける。先ほどまでネクタイを握っていた長い指で丁寧に、丁寧に包装を解き赤と緑の球状のチョコレートが表に出した。先生の瞳と同じ色。キットで作ったものであれど、どうか先生の舌にあえば、と思って作り上げたもの。その一つを指でつまみ眺めた後で「いただきます」と先生は言った後で味わうように咀嚼して、飲み込んだ。
「ああ、これは…………ええ、ありがとうございます。名字さん。実に此処で全て食べるには惜しいくらいです。ですから、これは私が責任を以て預からせていただきます」
ほら、いきなさいと先生に促されて教室を出る。その間際だった。
「ところで、これで全部ですか? 他の人に渡す予定は――ありませんね?」
ふいうち、ささやき。あしのもつれ。私はその場で先生に支えられながら頷くことしかできなかった。
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます