悲壮哀夜

「――――――愛して」
 何度目かの行為中、独り言のように呟いた女の言葉を、男は聞き逃しはなかった。陶磁器のような肌を武骨な指で滑らせて、そっと頬に触れる。
「ああ、ずっとこうしていない時でもオレは、メートルを愛している」
 男はそっと耳元で囁き、ゆったりと腰を動かす。甘い声が女から漏れるたび、うわ言のように愛を乞う言葉が溢れた。
「愛して、あい、して、あい……し、て」
 普段無表情で人形を貫く少女が、夜、褥を共にするときだけはこうしてあられもない姿を、顔を見せ幾分か素直になる光景は、結ばれてから何度も見てきたが男にとってそれは、痛々しく思えてしまっていた。それでも彼は、彼女を愛している故に、まるで植物に水を与えるように愛を注ぎ続ける。
「ああ、大丈夫だ。オレは、あんたのことを愛している。だから……どうか、どうか」
 人間に、なってくれ。その懇願は口に出かかったところですぐに止まり、口にされることはなかった。
「オレに身を委ねてくれ。それだけでいい、千代」
 律動は次第に激しくなり、下に敷かれている千代はただ、男のなされるままに「愛」を浴びていた。細い腕は男に押さえつけられ、瞳は恍惚のあまり光を失っていた。愛を乞う声は次第に音の境界を喪い、喘ぎ声と化していく。眼鏡をはずしているのか、千代はしっかりと男を見ていないようだった。
「……千代」
 男は、口づけを女の額に落とす。そして、二人は夜、清らかなシーツの海に沈んでいった。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!