「また、寝落ちしてるなオレのメートルは」
澄み切った空気の元、少女は安物のソファに横たわっていた。手はだらりと地面に向かっておろされて、シンプルなワンピースはところどころに皺が出来ている。男は起こさないようにそっと女の体を抱えた。
「寝るのならきちんとしたところで寝ろよ。まあオレの言えたことじゃないが」
作業場から少しだけ離れた寝室へと男は女を運び込む。すうすうと小さな寝息を女はたてているのを見て男は少しだけ胸をなでおろした。
「ああ、生きている」
ぽつり、と呟くもその言葉は女を目覚めさせることはない。ドアを慎重にあけつつとうとう寝室にたどり着くも女は相変わらず安らかに寝ていた。男はそっと女をベッドに寝かせて寒くないように布団を被せてやる。
「―――千代、ああ、千代」
月明かりに照らされた女の寝顔はまるでよく出来た人形のようで、それがかえって男の心を締め付ける。辛うじて女の寝息と胸が僅かに上下する動きはまだ彼女が人間であることを証明していることがせめてもの救い。そっと男は武骨な手を女の頬に触れる。
「柔らかいな、あんたの肌は」
せめてもの祝福として女の額に口づけをする。
「あんたがどんなことを言おうとも、オレは」あんたの味方だ。
その決意は寒空にふわりと消え、女に届くことはなかった。
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