度重なる温もり

「あ、君ぃ、一緒に帰ろうよぉ」
「……馬岱先輩、いきなりどうしたんですか?」
 校門前にて、女は恋人である馬岱と遭遇する。口をぱくぱくさせつつ、白い息を漏らしつつ、目は馬岱を凝視していた。
「いや、今日は部活も休みだし折角だから一緒に帰ろうかなと思ってさ」
「いつも一緒にいる馬超先輩は?」
「ああ、若は部活でまだ遅くなるから先帰ってくれって言われてさ」
 白い息を混ぜ合いながらもとりとめのない会話をする二人。少しだけ紫から濃紺に変わりゆく東の空を背にして歩いていく。途端、ひゅうっと北から風が吹く。まともな冬支度をしていなかった女は肩をすくめながらふるふると震えた。
「……君、もしかして朝からずっとコートやマフラーなして着たの?」
「寝坊して遅刻寸前だったんですよ!」
 ソッポを向かれた馬岱は少しだけ考え、何か思いついたように彼女の手を取った。
「……せ、先輩……!」
「やっぱり、手袋もしてなかったようだね」
 そして少しだけ赤くなった小さな手をスエードの手袋をした大きな手で包む。
「これで、暖かくなったでしょ?」
 布越しに伝わる暖かな温もり、少しだけおどけたような笑顔ではない柔和な笑みをした先輩。それだけで、女を赤くするのには十分だった。
「……先輩、ずるいです……」
 その手は振り払われることなく、重なった影は濃紺の空の方へのびていった。

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