或る夜の一時

 夜、屋根の上にて智は歩きながら月を仰ぎみていた。白い光を浴びながら、くるりと時々回りつつ静寂の中靴の音を響かせていた。
「―――ああ、とても―――」
 それを地上から見るは、1人の男。
「月下美人……いや、まるでこれは……」
 かぐや姫か、と男は女に大声で語りかけた。
「―――!」
 女は聞こえていたのか驚愕した目で男を見る。その拍子に、女は足を滑らせて地へと堕ちていった。声を上げる間もなく地面へと真っ逆さま。ただ女は此処で生を終えるのかと覚悟して目を瞑った時だった。
「危ない!」
 男は、纏った布をはためかせ女が堕ちる場所へと駆け寄る。そして、上から堕ちた女を男は抱き抱える形で受け止めた。女は目を恐る恐る開けて状況を確かめる。逞しい腕が自分の体を支えていて、目の前には髭の生えた優男。それで初めて自分は今助けられたのだと実感した。
「あ、あの、何故孫市さんが……」
「偶然外に出てみたら、かぐや姫がいたものでね……。まさか智から降りて頂けるとは光栄だ」
「や、ちがう、私そんなに綺麗じゃないし、肌は血で穢れてますし」
「でも、求めはするだろう? 愛している故の証拠をさ」
 女は、顔を手で覆い男から目を背けた。しかし孫市は甘ったるい言葉を女に注ぐ。
「ああ、照れてる姿も可愛らしいぜ? お姫様。それで、どうすればこの俺の愛を受け取って……」
 その後、小十郎に発見されお咎めという名の説教をされるがそれはまた別の話。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!