月下の烏

「――――月、か」
 ふう、と男は銃口にまとわりつく煙を吐息でかき消して空を見る。そこにあるのは空に浮かぶ白銀の円。空にはそれを隠すような雲はなく、ただ燦然と闇をほのかに照らしていた。
「なあ」
 男はぽつり、と言葉を吐く。ゆっくりと月から自身の隣へと顔を向けるがそこには何もないうえに誰もいない。
「そういや、まだ帰ってこないな。お姫様は」
 ああ、と男は嘆息したのちに草の上に寝転がる。
「お姫様がいないんじゃ、月を一緒に見られねぇじゃないかよ……」
 男の脳裏に浮かぶは氷を思わせるような女。それでいてほんの少しだけ何かを抱えていそうな女。
「なあ、今はどうしてるんだい?」
 よっと声をあげて男は起き上がる。そしてどこかしっかりした足取りで歩み始めた。

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