3-5 Radio/Staytuned-Midnight 3

 イレイザーさんとマイクさんと合流し、先ほど会議したビルへと戻っていく。正直に言うとちょうどいいタイミングで助かった。こういうのに興味はあるかどうかを聞いてくるミッドナイトさんの質問攻めへの対応が追いつかなくなってきたころだったからである。
「そういえばベラちゃんはメイクしないの?」
「しませんね。基本的に顔覆っているのでしなくても問題ないと思っているので……」
「外出る時もそのマスクをつけているの?」
「はい、基本的にずっとこれです」
「――なるほど、ねぇ」
 あの間は、正直言って恐怖しかなかった。個性由来の副作用で醜い唇が出てくるのではないかなど、メイクなんてしても消費されるだけの化粧品がかわいそうであるからしてないだけで当たり障りのないことを述べてもまた一つ、深いところに踏み込まれそうで心臓が早鐘をがらんがらんと打った。
「まあそれでもいいけど今は私に任せなさい!」
 ミッドナイトさんがそういってくださったのはいいが、まじまじと私の顔を見た後ハヤブサもかくやの速度で化粧用品を見繕い右腕て色見を確かめて餞別してその勢いのまま会計レジへ。その後は宝飾品をどうするかなどで話し合ったりなんやかんやあったりして――合流に、至った。
 ビルに戻り、男女別に部屋に入って本格的な衣装合わせ。日付がわからない以上やるべきことはすぐにやらねばならないことは理解している。服を着て静かに輝く装飾品を身にまとう。ミッドナイトさんの趣味で追加された扇子はまるでベルサイユ宮殿で使われているような何かを連想させた。
 ここまではいい。しかし、しかし――やはり、とらなければならないのだろうか、アレを。
「――どうしても、外さなければなりませんか?」
「まあ貴方の場合はヒーロースーツでも常に口を覆ってるんでしょ? それなら外した方がいい変装になるからねぇ」
 お守り代わりに身に着けている不織布のマスク。中学を出て以降誰にも見せたことはないというのにどうすればいいのかわからない。見せたくないが、外さないと始まらない。
「あの……一緒に買っていただいた扇子で顔を隠すというのはあり、ですか?」
「顔を出すのが恥ずかしいの? もしかしてメディア露出しないかんじ?」
 彼女の問いに赤べこのごとく首を縦に振る。
「わかったわ。それも加味していい感じに仕上げるわね。でもメイクをする以上――マスクは外すのよ? パウダーとかファンデーションとかのせられないから」
 一息と、絶望が入り混じる。何を言われるのかわからない。
 目の前の人が恐らくそういうことは言わないだろうことは頭で理解している――が、そういう時に限って人は言葉のナイフを突きさすものだ。
「なにも、いいませんか」
「いうわけないじゃないの」
 ほらほら、と一歩踏み込まれて――耳にかかっているゴムをゆっくりと外された。
 抗おうにもエネルギーを使うから手も足も出なくて、むしろその選択しすら表示されないような。そんなかんじだった。
「よし、これで準備は整ったわね」
「――本当に、何もいわないのですね。ミッドナイトさん」
「本当に何もいわないわよ。いうわけないってさっき言ったんだから」
 ほんの少しだけあきれたような笑みを彼女は浮かべる。今まで出会った人たちが本当にそうだったらよかったのに等と叶うはずもない願いがよぎってしまった。
 ――過ぎたことをやり直したいと希えども、無駄であるというのに。どうして。

 

 

「しっかし……イレイザー、よく似合ってるな」
「そりゃどーも、だがやっぱり動きにくいなこりゃ」
「お前の場合普段着と比較しちゃだめだろ」
 別室に連行された俺は、先ほど調達したスーツセットに袖を通して適当に髪の毛をいじられる。
 確かにこれも大切な仕事ではあるが――それはそれとして非常に動きにくい上に出来れば静かにいつも通りやりたいというのもまた事実。だが一芸だけではヒーローは務まらないのもまた事実。不平不満はここまでにして後はマイクの助言を取り入れつつそれっぽい場所に浮かないような外見に整えてみた。
 ……やはり、違和感しかない。そしてお洒落はやはり手間がかかりすぎる。毎日違う服を選択するだけでも非合理的だと感じてしまう。その分思考のリソース並びに考える時間がかかるからだ。同じような服を学生服のように定めたうえで何着も用意して選んだほうが余程いいだろう。
「……そうか?」
「そうだよ!」
「そうか……」
「まぁ、お前がそういうことを考えないというのは容易に想像がつくさ。だがまぁ今回はそれが必須な場面だしこんな感じの格好を着る機会も増えるだろうしよぉ。潜入捜査で」
「……」
 身動きがしずらい正装のスーツ、底で地面をとらえられない革靴にネクタイ。はっきり言って苦手な部類の服装だが致し方ない。それに彼女――ベラスニェーカがどのような服になるのか、否、彼女が現在どういう感じになっているのか把握しておきたい。これは任務を共にするからこそ、必要なことだ。
「なあ、ベラスニェーカは……今どうなっている?」
「彼女か? まぁ恐らく準備中だろうよ。香山先輩かなり力入れてるっぽいからなー」
 ……本当に、大丈夫だろうか。
 急いで様子を見に行きたいところだが流石に準備中特有の姿をのぞき見るのはだめだろう。ただ祈るしかない。彼女がぐったりしていないかを。
「……」
 着替えながらなんとなく、彼女のことを思い出す。
 ゴーグル、白い雪、自己犠牲。
 そうだ、彼女は彼女である。それ以外誰でもない。この前の共闘からしてそれは理解している。

 おそらく彼女はヘマした俺を見過ごすことが出来なくてあの時サイレントシネマの前に現れたのだろう。無事に敵を確保できたからこそよかったが――下手すれば二つの袋が然るべきところにあったところだった。
 思えば、あの時からずっと胸の中に引っかかっている。彼女が何故見え見えの嘘をついたのか。そして――彼女が何故、ヒーローになったのかを。
 というのも確証はないが彼女は――ヒーローに向いていない。奇跡的に演技がうまくいっているだけでいつかボロが出るだろう。ただ、何故彼女がヒーローになったのかは未だ俺は知らない。なおかつ、まだ俺は彼女――ベラスニェーカのことを全くしらない。彼女は本当に向いているのか否かはベラスニェーカのことを知ってからでいいだろう。
「なあマイク、彼女……ベラスニェーカのことだが」

「気になるのかぁ?」

「……お前の想定している方向じゃないが気になってはいる」

「何を想定してたんだよ」

「何も。ただ彼女と何度か合ってはいるが……色々引っかかることが多くてな」

「あー……お前そういうところよく気づくよな、昔から」

 正装を身にまとい、髪の毛はオールバックに、そして普段つけないような香水を振りかけられながら向こうの連絡を待つ。

「まあお前がそういうんならきっと彼女に何か『ある』んだろうよ」

 ほら、とマイクに背中を力強くたたかれる。いい音が狭い部屋に響き渡る。それと同時にスマートフォンの通知欄はミッドナイトからのメッセが到着した旨を知らせていた。

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