「智、俺はあんたのことを愛してるぜ」
浮ついた言葉は低く滑らかな声と共に目の前の女に届けられる。声を掛けられた女はそれを日常の一つとして聞き流していた。
「ああ、その変わらない横顔、時折見せてくれる優しい笑顔、君の全てが好きだ。だからどうか」
俺の手を取ってくれ。そう全て言い切る前に女は男の方を向くことはなく淡々とした声で言い放った。
「―――きっと孫市さんの言葉、全て嘘になるのでしょうね」
それは人間不信故の嘆き。男特有の軽薄さと誑しぶりを知っているということも相まって女は歩く速度を上げて振り切ろうとしたが、男が女の手を握って強引に引き寄せたためそれは叶わぬこととなった。
「智、俺は―――」
男は息をすうと吸った後彼にしては戦場でしか見せないであろう真剣な声色で女にいった。
「お前への思いに偽りはない。惚れた女のためなら何処だろうと飛んでいくぜ?」
一瞬、静けさが場を支配する。それを打ち破ったのは智の言葉だった。
「それが本当であれば、いいものです」
滲み出る諦観、女は男の腕を振りほどき一瞬だけ一瞥して歩いて行った。
「その日が来なければいいんだがな」
孫市は彼女の後を追う。そしてまた再び智にかける甘い言葉を考え始めた。
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