「―――京楽隊長、話とは」
「こんな夜更けに呼び出してすまないねぇ、蓮ちゃん。少し君と酒を交わしつつ話がしたかったんだよ」
八番隊隊舎の縁側にて、二人は満月が藍色の空に浮かぶのを眺めている。京楽の右手側にいるは相変わらず緑の目を伏せている女。女の小さな手にはなみなみと酒が注がれていた。
「……まさか、私のような者が貴方様と二人きりで酒を飲みながら何かを話す、とは……」
「ん~? どうした、まさかボクのこと好きになっちゃったとか?」
「……ち、違います」
一気に蓮は酒を一気に飲み干し、一息つく。ひゅう、と京楽は口笛を吹き空いた杯に再び酒を注ぐ。間髪入れずに女はぐいっと酒を喉に流し込んだ。
「飲むねぇ、結構いける口かい?」
「まあ、それなりには。だいたい一人で飲むことが多いですがねぇ」
ふう、と女は杯を傍らに置いて両膝を抱えた。京楽はそっと彼女の肩に手を置く。
「……大丈夫かい?」
「大丈夫です、酔ってませんよ。私がこうしたいからこうしているわけです」
「いや、そうじゃなくてね……ここの所最近君は元気なさそうだったし、何か悩みでもあるんじゃないかと思ってさ」
その言葉を聞いた蓮は膝を抱える腕を強張らせた。顔はうずくまっている故かどういう表情をしているのか京楽からはうかがうことは出来ない。ひやりとした夜風が二人の頬を撫でる。
「大丈夫です。悩みはありません。元気がないのはいつものことです、はい」
「そうか……、でも心が折れそうなときとかどうしようもなくなったときはボクに言ってね。話だけなら聞けるかもしれないし、泣きたくなったらボクの胸を貸すことならできるから」
「……遠慮します。胸毛が邪魔そうですし」
「そっかぁ……」
大の大人は肩を落としつつも酒を飲み干す。彼もまた杯を置いた後、蓮を優しく自分の方へ引き寄せた。
「京楽隊長……!」
顔をがばりと彼の方へ向け、二の句を継ごうとしたが静かにと言わんばかりの彼の人差し指が女の唇を軽く抑えた。
「頼むから、壊れる前に僕に助けを求めてくれよ、蓮ちゃん」
ね? と京楽は彼女を解放した。女は呆然としつつも潤みを孕んだ声色で呟いた。
「大丈夫です、私は壊れることはありませんから」
「……そっか。でも何かあったらボクにいってくれよ」
ふわり、と京楽は蓮を立たせて彼女を寝床に連れていく。その途中、女は「誰かに頼る程、私は弱くありません」と呟いた。
お題配布元:確かに恋だった
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます