或るカルデアの昼下がり。ナポレオンは借りていた本を返すべく蒼の個室へと入っていった。本を返したらしばらく彼女とじゃれあおうかと思案していたら女が
「折角だから、少しティータイムでもしませんか?」
と持ち掛けてきたので男はそれに応えることにした。
◆◆◆
小さな卓上には焼き菓子と硝子のポットに入れられた赤褐色の液体が並んでいる。傍らには耐熱プラスチックで形成されたカップが二つ。
「このクッキーは随分と美味しそうだな。オマエさんが作ったのかい?」
「は、はい。エミヤさんやブーディカさんに教わりながら作りました」
「そりゃあいい。彼らは料理の腕がいいからなぁ。オレも缶詰制作の時には世話になったもんだ」
会話をしながらお茶会の主である蒼は自前のカップに紅茶を注いでいる。紅茶独特の香りが湯気とともに立ち昇り、香ばしい焼き菓子の香りと組み合わさり男の咥内をじわじわと追い詰めていった。大きな手がきつね色の円形に伸びていく。
「ああ、あのバレンタインのお返しでマスターにあげていたあれですね。協力の末にできたアレ」
「それだ。まぁ、作ってみたかったからというのもあるかもしれんが……でもやっぱり兵糧は大切だろう? それにいざという時のために食べなれておかないと対応できないというのもあるからなぁ」
「確かに……ハイ」
かとん、と入れられた紅茶がナポレオンに差し出される。男は目の前で注がれた紅茶を男が手に取り、軽く感謝を伝えたら女は少しだけ顔を赤らめて「ど、どういたしまして」と小声で呟いた。
「じゃあ、簡素ですが始めましょうか」
「ウィ、マドモアゼル」
そしてささやかな茶会は開かれる。互いに見つめあいながら、その赤い液体を喉に通した。
「―――それで最近はどういった映画を見たんだい?」
「マジカル・ガールですね。あの映画は本当にいいですよ。魔法少女が好きな女の子の願いを叶えるため父親が奮闘したり教え子のために教師が頑張ったりするお話です」
「……騙されんぞオレは。薄暗い話だろう?」
「あー、バレましたか、バレますよねそりゃ。散りゆく花勧めた時も私、最後に永遠を誓い合う男と少女のロマンスと言いましたからね……」
クッキーが一個、一個と減っていく。ポット内の紅茶もそれに伴い水かさが減っていく。綺麗な食器の上で繰り広げられるのは映画に関する会話だった。
「長いとこ一緒にいたらわかるさ。好むのはそういう話だということを」
柔らかく慈しむ様な青い目が女を見る。女はその目をじいっと見ながら残った紅茶を飲み干した。唇とカップが離れ液体が喉を通り過ぎた後、女はカップを置いて彼の言葉に返事を返す。
「気づいたら、そういうものを多く見てきたんですよ。落ち着くので」
「でもたまには常に幸せな映画とか笑えるやつも見るだろう?」
「……まぁ、笑えるのは見ますね。この前見たスパイ映画は最高でしたよ。死体袋が跳ねて敵に攻撃したりとか」
「っ、どういう話だよそれ」
「いやその……見た方が早いので今度見ましょう!」
会話をしながら水分を補給しているうちにポット内の紅茶が尽きていく。皿に並べられたクッキーも既にない。それを確認した二人はごちそうさまを言って立ち上がり、女はかちゃかちゃとトレイに皿を載せて片付けようとした。しかしナポレオンはそれをやんわりと止めて「せめてものお礼だ」ということでそのトレイを持ち上げてキッチンへと運んでいった。
「―――私ぁ、がやりたいといったのに」
ふと、声が漏れる。その声が少し熱を孕んでいたということに、女は気づいてしまった。
「あ、これ早く効くんだ」
そういえば、と女は思い出したかのようにコートのポケットから一つの瓶を取り出した。空になっているが赫色の残存するそれがどういうものかを彼女は知っている。それを予め自分のコップに仕込んで、愛する人の目を見ながら飲み干すことにより見た対象への『執着』を増幅させてしまう愛の霊薬。本来であれば或る並行世界での聖杯戦争にて使われ、神霊サーヴァントを狂わせるほどの効果を発揮するものであるがどういう因果かそれが彼女の手に渡っていたのである。そもそも、似たようなものが作れるはずがないが本来のカルデアのマスターが虹色の石を使って英霊を召喚するたびにその副産物としていくつか出てきている時点で奇跡以外の何物でもないが。
その霊薬をあおった女は自身にへばりついている『或る異聞帯』由来の記憶と痛み、彼女が元から抱えている自己肯定感の低さから来ている劣等感並びにナポレオンに思われていることに関する猜疑心が一つの感情に塗りつぶされるのを感じた。その塗りつぶした感情は唯一つ。甘くて激しい慕情だった。
「あ、あー、ちゃー。わたしだけの、あーちゃー、わたしだけのおほしさま」
空に手を伸ばそうとしてベッド上で立ち上がろうとしたが、ふらりと均衡を崩して椅子から落ちる。地面にて自分の体を抱え込んだ後、震える足を立たせてドアの方へと歩き出した。息は荒くまるで病人であるかのよう。それでも彼女はきちんとした様子であいするひとを迎えねばという使命感で耐えた。体の芯が燃えるようで、普段は氷のように冷たい理性も既に溶けて、蜜ろうで封じていた内部がどろりとあふれ出す。
「ああ、はやく、はやく……」
ドアを開けようかと少し思案したのちベッドへと踵を返す。そしてベッドの上で礼儀正しく体育座りをして愛する人を待つことにした。溢れる感情を体で必死に押さえつける。ぼろぼろに崩れそうでどろどろと滲みだしそうなこころ。まだ一人でいるからこそマシであるが、この場所に愛する人が入ってきてしまったらどうなるのだろうと精神の片隅に残っている理性がぼんやりと空想していた。
そんな必死のせめぎあいもすぐに終わりを迎える。ドアが開き、堂々とした足取りで愛する人が戻ってきた。
「ただいま、メートル」
「……おか、えりなさ、い」
蒼は顔をあげる。そこにいるのは紛れもなく彼女が愛する人、彼女を愛している人だった。思わず手が伸びる。その手は男の逞しい体を抱きしめていた。
「随分と熱烈な歓迎だなぁ。本当に、熱烈で……それでいて顔を真っ赤な薔薇のように染め上げていて最高だ」
「んー、ただこうしたい気分なのです」
ぎゅう、とナポレオンの体を抱きしめてきちんと着こんだ軍服の胸元に顔を埋める。リラックスしているのか女の顔はほんの少し沈んだ。
「あーちゃー、わたしのいとしいいとしい貴方……、わたしだけの、あいするひと……ま・えとわー……」
「珍しいな、そんなにオレに燃えるような言葉を向けるなんて。まぁそう思われているのならこっちも答えんとな」
右腕を女の腰に添えた後でどさり、と女を優しくベッドへと押し倒す。歓喜に満ちた顔で女はへにゃりと笑い、体を疼かせた。
「やぁん、押し倒されちゃったぁ……」
その声色、どこで覚えたのだろうか。ナポレオンは普段滅多に見せない女の蠱惑的な有様を見てガチャリと何かが落ちる感覚がした。自身の砲身が立ち上がり熱を宿し始める。それと同時にほんの少しだけ靄がかかったような気がしたが、脳の片隅に置いておいて目の前の愛する人に甘ったるくて心地いい言葉を耳元で囁いた。
「愛してるぜ、オレの、オレの婚約者。今日という今日はオマエさんの体中に雨のような口づけを落としたい」
合図といわんばかりに男は女に深い口づけを落とす。互いの口の中を味わって、深く深く溶けていった。
「んーっ、あ、あう……」
「ん……ぐ、はぁ……」
ぐちゃぐちゃ、ぬちゃぬちゃと舌が絡み合う。とろんとした視線がかち合って、再びどろどろに溶けていく。女の手は男の腰に。熱いモノが女の体に当たる。互いの好きという気持ちが溢れそうで止まらない。互いの口が離されて銀糸だけが二人を繋いでいる。
「はぁ……好き……アーチャー、だぁーいすき……」
「オレもだよ、蒼……」
そして二人は溶けていく。まるで互いを貪り合うように、体温を求めるように。
◆◆◆
「あ、ちゅっちゅ、すきぃ……もっとあと頂戴ちょーだぁい?」
互いの服は脱ぎ捨てられ、柔い蒼の体は男の逞しい体に抱え込まれるように繋がっている。先ほどまでしていた女の眼鏡は体液がかかるといけないからということで男の手によってベッドサイドの眼鏡ケースに入れられた。
「ああ、今日は一段といいこえで……鳴くなぁ。その声を聴くと、色々昂っちまう」
「あんっ、あぁ……あなただけ、あなただけのまえで、しか、んんぅ、だしま、せぇんよ……」
ナポレオンは寝台の上に座り、女は彼に向かい合うようにして自身の蜜壺に彼の巨砲を入れた。既に対面座位で繋がる前に何度も何度も達して、口づけしあい、男から愛の跡を付けられた故に既に壺の中は白濁と蜜が混ざりあい溢れている。愛し合う行為特有の息遣いと刺激がただでさえ目の前の愛する男に溺れている女にとってはさらに色々と燃え上がらせる燃料である。故に彼女は今、彼の腕の中で盛大にあえいでいた。
「だめぇ……、ん、あ、ああん、ひゃ、ああ……あっ、ああ……!」
ぱんぱんと肉同士がぶつかり合う音が無機質な部屋に響いている。ぐちゃぐちゃという水音がことの激しさを物語っている。
「ほーらこんなにもやらしい液があふれているぜ? しかも……、中はしまっていて離したくないって下のお口からいってるようだ」
「だって、はなしたくなぁいんだもぉおん!」
ぎゅ、と女が男の体にしがみついて耐えるように快楽の刺激を味わう。口を開け男の逞しい首筋を噛んで声を出さないようにして、びりびりと駆け巡る刺激を体感する。
「またいったかぁ……しかしオマエさんも跡をつけるなんてなぁ」
「すき、あーちゃーはわたしの、あいするひとだもん……!」
「嬉しいねぇ、なら蒼はオレの……女で婚約者だ」
その言葉を封じるようにまた口づけを交わす。でろでろになった唾液で唇同士が滑りあい、さらに互いの腕は恋人の体を離すまいと強く抱きしめる。
「すきぃ、だーいすきぃ……ずっとぉ、ずーっといっしょに、うぁあん、いよーねぇ……」
「ああ、ずっと一緒だ……」
巨砲はどくりと脈を打つ。その鼓動が響いたのか女はことさら強く男を抱きしめて体を弓のように反らした。
「あ、すきぃ、なぽれおん、しゃぁ……ん、あ、あ―――!」
「いけ、いっちまえ……! 蒼……!」
盛大に男は女の中に自身の白濁を注いだ。巨砲から注がれる白を味わいたいといわんばかりに彼女の中はひくひくと動いていた。互いの名を呼んで達した二人は一つの生き物であるかのように未だくっついている。全て注がれたことを確認したナポレオンはゆっくりと自身のものを抜いてやる。まだ感じているのかゆっくりと抜かれた瞬間に蒼はぴくんと体を跳ねさせた。
「ちゅっちゅ、ありがとう……」
「どういたしまして……またお望みならいつでも言ってくれ。愛しいオマエさんのためなら何度も何度もキスを注ぐからな」
いつでも、その言葉にどこか遠い感覚を覚えながらナポレオンは彼女の腕をゆっくりと引きはがした後に女の額に口づけをする。その感触を閉じ込めるように女は少しだけ縮こまった後ふっくらとした口を開いた。
「じゃあ、今、今ほしい……」
「ハハ、いいさいいさ。随分と今日は積極的だなぁ」
ちゅ、と柔い女の唇に触れるだけのキスを落とす。えへへぇとにこやかな笑顔で女はありがとうといった。
「たまーにこうしたくなるのでぇす」
「そうか、そうか」
―――いや、ちがう。している時にタガが外れることはあれど最初から積極的におねだりすることは今までなかったはずだ。
そう彼は思案するも決定的な証拠などがない今はただ、女を愛でるしかない。いつ彼女が普段通りに戻ってしまったとしても愛されたという記憶は残るはずだ。
「いつでもオレは大歓迎だからな?」
せめてものやすらぎのために男は女の体を清め、シーツを取り換えてやる。ふかふかの布団を女にかぶせたが、その温もりを共有するために一緒の布団へともぐりこんだ。細くてことの余韻に浸っている肩を引き寄せると女はぴたりと逞しい男の体に寄り添って、溶け切った笑顔で微笑んでみせた。
「えへへ、ありがと、なぽれおんしゃん……」
そう笑った後、既に体力は尽きていたのかすぐに瞼は落ち、静かな寝息をたてはじめてしまった。
「一段と今日は素直で正直だったなぁ。そんな処も可愛らしいぜ」
また彼は女の額に口づけを落とす。そして彼女を起こさないようにして布団から脱出して、いつも通りの服に着替えた。
◆◆◆
「―――は」
甘ったるい行為特有の熱が冷めた男は女の着ていたコートを畳み、いつ蒼が起きてもいいようにとベッドサイドへと置こうとした時だった。ポケットに違和感があったため何が入っているのかと漁った結果、花がモチーフの栓があしらわれている小瓶が見つかったのだった。底に赫色の液体が僅かに残っている。
「どこかで見たような……」
今は女は眠っている。しかもあれだけ激しくした後ならそう簡単には目覚めないはずだ。そう彼は結論付けた上でカルデアの管制室へと向かっていった。
「この瓶……霊薬の類か」
「おそらく愛の霊薬だろうね、多分召喚時に出たやつを蒼ちゃんは服用したのだろう」
ナポレオンは管制室で様々な調整をしていたダ・ヴィンチちゃんに瓶について質問してみたら瓶の正体はすぐにわかった。どういった状況で飲んだのかについて―――但し情交については省く―――も話していたらそこに素材採集帰りのアーサーも加わり詳細な情報ももたらされた。
「確か、彼女は君の紅茶を飲んでいたんだね? ずっと見つめるように」
「ああ、随分と熱い視線だったぜ」
「愛の霊薬はね、服用者がある対象を見つめながら飲むとその見つめた対象に関しての一種の執着あるいは慕情を増幅させる薬なんだ。まぁ、召喚システムで英霊を呼び寄せる時に副産物としてそれが出てくるのだけど……本来は基本的にそう作れない薬なんだ。何しろ封印指定間近の魔術師が自身の起源を練りこんで作り上げた薬だからねぇ」
「―――道理で、こんなにいつもより素直だったわけだ」
普段より素直に溶けて、甘えていた理由。ナポレオンは愛する女が素直になるために霊薬というモノに頼っていたという事実に憤ることもなく、ただ淡々とその事実だけを受け止める。何か思うところがあったのかとダ・ヴィンチとアーサーは察して霊薬についての話を進める。
「神霊級のサーヴァント……このカルデアにはいないようだけどブリュンヒルデと対峙した時に彼女が目の前でやはり僕の目を見ながらその薬をあおったけどその後がとても、言葉に出来ないくらいになってしまったものだ。人である蒼が飲んだというのなら今はかなり危険な状態ではないかい?」
「大丈夫、副産物としての薬はそれほど効果はないよ。恐らく数時間程度で消えるかもしくは性交渉を行ったらその効果は切れる。それに服用したところで対象者に対する慕情もしくはそれに似た感情があふれ出すくらいだし、その感情からあらゆる面における暴走はしないようになっているさ」
それを聴いてナポレオンとアーサーは胸をなでおろす。少なくともこのカルデアが半壊したりすることはなくなったからだ。ふうと息をついたところでダ・ヴィンチはナポレオンに或る提案をした。
「ともかく、どういった経緯で手に入れたかは分からないけど……様子を見にいった方がいいんじゃないか? 時間はそれほど経ってないようだし。それと私は彼女……蒼を責めるつもりはないさ。自分で何かの折に召喚した時に出たものを飲んだかもしれないからねぇ。でも大ごとにならずに済んだからいいけど次からちょっとこっちでも色々考えないと」
「ああ、元よりそのつもりだ。礼を言うぜ小さなマドモアゼル」
そう言ってナポレオンは彼女がいるであろうマイルームへと大股で歩んでいく。それを見届けたダ・ヴィンチは自身の作業に戻り、アーサーもどこかへ消えていった。
◆◆◆
「―――あ、ああ」
暫くして女はむくりと布団の中で覚醒する。気づいたら素肌になにかふわふわとしたものが乗っかっていることに気づいた女はゆっくりと思考回路を起動させる。枕もとの腕時計は既に夕方を示していた。
「昼寝、してしまったのですね」
ゆっくりと体を起こそうとすると腰のあたりに鈍い痛みが走る。布団の中を見てもきれいなシーツと布団があった故に何があったのかは分からない。ただ、女の陶器のような白い生足があっただけだった。
「あれ、裸で寝るという趣味はないは……あ」
もしや、と思い蒼はベッドから離脱して傍に畳まれた自分の服に着替える。極地礼装の上に着ているコートを羽織ったところで謎の違和感を感じた。
「……ない、ない」
ポケットに手を突っ込んでみる。あの茶会の前に自分のコップにあらかじめいれていた薬をいれていた小瓶がなくなっていた。自分の部屋中を大急ぎで探してみても見つからず、ただ途方にくれるしかなかった。
「バレた、バレたに違いない。私があの霊薬を利用したということに―――!」
霊薬を自分の想いを成就させるためにチョコに混ぜたという前例はあれど自分自身が召喚の副産物として入手したものを悪用してしまうということにいいしれぬ罪悪感がこみあげてくる。相手に迷惑をかけてしまった、酷く酔った勢いで愛する人にアプローチをするという彼女にとっての最低最悪な行為を彼にしたという事実。生臭い匂いは愛する男の努力によって消えていたらしい。
どくどくと動悸が激しくなる。さーっと体から血がひく感じがした。自分自身の心の弱さが引き起こした罰を、塗りつぶしたいという衝動のあまり彼女の考える外道な行為に手を伸ばした罰を今、彼女は罪悪感を感じるということを以て受けている。
「ころせ、ころせころせころせころせころせ―――!」
ふと、自分の机の引き出しの中にある三角定規を思い出した。引き出しの取っ手に手を掛けてその中のものを取り出そうとした。アクリルで出来た厚いそれ、人を少しだけ傷つけるのに十分な固さと30度の鋭さを兼ね備えた凶器。
―――誰かが自分自身を裁かないのなら自分自身で裁けばいいじゃない。
変な笑いがこみあげてくる。ふと、左腕を見つめてみた。そこにあったのは細い傷跡の名残に上書きされるように付けられた赤い跡。さっきまで自分自身に愛を囁いていた男による印がそこにあった。
「どうして」
まばらに付けられた痕が蒼に問いかけてくる。何故愛する人を裏切るような真似をしようとしたのかを。自分自身がしようとしていたことに気づき、女は寝台へと戻り布団の中で疼くまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい。信じることが出来なくてごめんなさい。まだ弱い自分でごめんなさい」
小さく呪文のように唱え、必死に涙をこらえる。その行為は無駄なことであろうことは彼女自身わかっているはずであるが、どうしても、どうしてもやらずにはいられない。ずっと愛する人と一緒にいるにも関わらず彼女の心を巣食う傷跡は開き続けていて、血はどくどくと流れている。自分の弱さによって犯した罪の罰がこの痛みなら、これはきっと今の私にふさわしい。
ふと、自分の腕時計を見ると既に夕方に差し掛かっていた。ことに及んだ時から既に数時間は経過している。耳を澄ますと夕飯時だからか食堂へと向かう職員、マスター、サーヴァントの弾んだ声が聞こえてきた。
「ああ、向こうはいいなぁ」
ぽつりと言葉が女の口から漏れる。一枚壁とドアの隔てた向こう側に想いを馳せつつも女はただ、布団の中でじっとしていた。カルデアの一員だから大丈夫だと信じたい心と、もしかしたら愛する人と出くわさないかという恐れが彼女の中に渦巻いている。その恐れを少しでも紛らわせたくて彼女はドアの外の音を聴いた。がやがや、かつかつ、きゃーきゃー。全ての音は通り過ぎていき、次第にそれらは遠く小さくなっていった。しかし、その音の中に混じって女のいる部屋へと向かっていく足音が聞こえてくる。そしてドアの前に立ったのかその音は止み、
「邪魔するぜ」
低い男の声と共にドアは開かれた。
ひどく聞き覚えのある声がする。かつかつとブーツの音が女がいる寝床へと向けられる。男は丸まった布団を見下ろした後、その傍らにぼすんと腰を掛けた。そっと布越しに丸まった布団の先端部を撫でてやる。小さな悲鳴がほんの少しだけ漏れた。
「―――っ」
「突然押し掛けてきてすまんな、ちょいと様子を見に来たんだ」
撫でていた布団の先端部分を剥ぐ。そこにあったのは遠い目をしている蒼の顔だった。ずっと中にいたのか髪の毛が乱れている。女はとっさに布団を持って自分の顔を隠そうとしたがそれはナポレオンの手によって阻まれる。
「……」
女は観念したかのように布団の海から脱出し、彼の横に並ぶようにして寝台に座る。蒼の目は泳ぎ、光は相変わらず宿っていない。それどころか、何も変わった様子のない男に対して萎縮しているようだった。
「……ごめん、なさい。勝手にお薬のんだり、飲んだうえで、貴方にせっくすとかしてと迫ったりとかして」
「大丈夫だ、オレは気にはしてないが……そうだな、念のため薬の件は後でダ・ヴィンチちゃんに謝ろうな。オマエさんはそうでもしないと気がすまないだろう?」
絞り出すようにして喋った言葉はきちんと男に受け止められる。そして女の腕を優しく掴んで立ち上がる。何も取り乱すこともなく、そうであることが当然であるかのように女は立った。
「わかり、ました」
そしてドアが開かれる。二人で一緒に管制室へと向かっていった。
◆◆◆
「まぁ、許してもらえてよかったな」
管制室からマイルームまでの帰り道。男は女の手を引いてまっすぐ彼女の部屋へと連れて行く。
「はい、次からは気をつけるようにと言われたので……もう、飲むのはやめにします。いや飲まないというのが当たり前なのですが」
管制室での自白並びに謝罪。それを管制室の主に告げたところ「無事で本当によかったよ! それはそれとして次からは気を付けてね」と開口一番に無事を祝福されたので少なくとも彼女にとってはそれが拍子抜けだったらしく、未だに彼女の言葉が所々引っかかっているところからその動揺はうかがい知れるところだった。
かつかつと二つの足音が廊下に響いている。そしてそのリズムが途切れた瞬間、部屋へと入っていった。
「……ところで、メートル。話したくなければ話さなくていいがどうして薬を飲もうと思ったんだい?」
再び二人は寝台の上へと腰かける。しかし今度は二人は向かい合うようにして座る。太く骨ばった男の左手が女の細い右手へと伸びていく。優しく、割れ物に触れるようにそっと触ってみた。女はただ、長い睫毛で自分の瞳を隠しているがふるふるとした唇は開き、小さく男の問いに答えた。
「一度、甘えてみたかったんです……。どうも……甘えるのがとても、苦手でして……。甘える、という感情に……集中できたら……と思ってずっととっておいた霊薬を、頼ったんです」
「そうか、まあ甘えるの苦手というのは分かっているが……それほどまで追い詰められていたとはな……」
「はい……。本当に、申し訳ございませんでした」
「いや、大丈夫だ。もう二度とやらなければいいだけさ」
ぽんぽんとナポレオンは蒼の肩をたたく。それでも蒼は唇を噛み締めたまま俯いていた。男は覗き込むようにして女の顔を見る。青い目は虚無を見る女を映した。
「ただ、私は……その薬に頼ってしまった自分が、こう、なさけなくて……終わった後で、きちんと言葉に出せる勇気なんてない私が……疎ましくて……薬なんかに頼ったところでその感情と行動は虚無で、そして迷惑にしかならなくて……」
小さく漏らすようにして虚無の女は言う。小さい懺悔室内で告解するかのように心の中の泥を言葉にした。男は女の顔を覗き込みながらも頷いたり相槌を打っている。ドアの外は相変わらず静かで、あまり会話音も聞こえない。ただ、女の声だけがこの部屋の中に響いている。
「それで、どうしようもなくなって、貴方があの時来てくれなかったらどうしてたか分からなかったのです……」
「……そこまで追い詰められていたのか、オマエさんは」
「はい……。きちんと冷静に判断できればよかったのですが……」
「あー、メートル。ちょっとこっち見てくれ」
ふ、と女は男に呼ばれた方に顔を向ける。そこにはずっと蒼の顔を覗き込んでいた愛する人がいた。晴れた日の空のように澄んでいる瞳が虚無の夜の瞳とかちあう。
「いくらオマエさんが悪いからって自責の念を持ちすぎるのはちとよくねぇと思うんだよなぁ」
「……」
「オマエさんの抱え込んでいることは分かっている。素直になれないという理由も分かっている。人を信じることが出来ないというのも分かっている。まぁ、最近は少しづつ改善されてるからといって、甘えることに関しては素のままだと難しいんだろうな」
ごつごつとした右手が女の頤に添えられる。女の背は伸び、男は女を見下ろすような姿勢になる。男の親指はふにふにとした女の唇へと触れられた。
「あ、あー、ちゃー。わたし、どうしたら」
「簡単なことさ。少しづつ慣れていけばいい。オレに全部任せてくれ、マ・シェリ」
その言葉を封じるかのように男は女の唇に自身の唇を重ねた。優しくて、ふわふわしたキス。女はそれを美味しいお菓子のように味わう。触れるだけの口づけは離れ、女は潤んだ眼で男を見つめていた。
「あ、ではその……おねがい、します?」
「D’accord, mon amour.」
低い声で囁かれたフランス語が口火となり、蒼はもぞもぞと寝台の上に寝ころぼうとして足をベッドに載せたがそれを見たナポレオンは女を押し倒した。
「っ……! あ、あの……あの……その、なんといいますか……」
「いきなりすぎるだろう、てか?」
「それです。その……困ります。好きな人に、そうされるの……どう、反応したらいいのか……」
柔い胸が逞しい体にあたる。それは布越しでも変わらない。とくとくと脈打つ鼓動は早くなり、それも全て愛する人に伝わっていく。
「初心だなぁ。まあ其処がまたいいのだが……」
「き、気にしてるんですよ……。何度も貴方とやらしいことしてるのに、まだ慣れなくて……分からなくて……」
「そこ気にしちゃおしまいだ。ゆっくり慣れるもんだし、慣らそうとして突飛な行動をしたとしてもオマエさんが苦しむだけだ」
ほら、とナポレオンは女の頬に口づけをする。女は変わらずにふるふると唇を震わせた。
「その、そう、ですよね……それで私は何をすればいいですか?」
「そうだなぁ……」
うーむと男は考えるそぶりをしながら上半身だけ起き上がらせる。女の上半身が、よく見下ろせる位置になり思わず心の中で口笛を吹いた。厳重に覆われたコートの中にある柔らかで豊満な肢体を知っている彼は自分の手を以て中にあるものを暴き立てたいと思ったが今はそういう時ではないので懸命に抑えつけている。そしてもう一つの大砲が起き上がるのも抑制している。万が一起き上がってしまったら、彼 女の秘所にあたってしまう可能性があるからだ。
「まずは何をしてほしいか言って御覧。今はオレとオマエさんしかいないから大丈夫だ」
眩しい太陽の如く、男は笑って答えた。思わず女はぽかんと口を開き、男の顔を寝床から見上げた。ああ、と女は漏らししばし想いを巡らせる。
―――今は、好きな人が私の体に馬乗りになっていて、その気になれば押し倒すような感じになって、キスもできて、ぬくもりも独り占めにできて……思う存分触れ合いもできたりして……あ、暴かれるなんてこと……も―――
「その、いいんですか? 何をしてほしいかって……」
「そのための、今だ。蒼が甘えられるようにするための練習みたいなもんだからな」
熱が女の体に宿る。体の芯にある硝子細工が溶け落ちるような感覚になった。愛する人と二人きりという状況がそうさせたのか、女は小さな声で自分の中にあるモノを出した。
「あの、その、キスとか……ふれあいといいますか……せっくす、とか……服脱がされたりとか……されたい、です……」
目を背けて小声でいう。しかしその声量でも男に届いたのか再び覆いかぶさられた上に深くえぐるような口づけをされた。最初こそ戸惑ったかのように目を見開いたが、自分がそう願ったものだと認識した途端女はその男からもたらされる唾液の味と咥内の感触を味わった。目を瞑って互いの生ぬるさに浸る。ちくちくとした髭の感触も心地いい。
んぱぁ、と口が開放されると今度は男がギラギラとした目を女に向けた。
「ったく、いきなりそんなことをいうなんて大胆な女になったもんだなぁ、メートルは。いいぜいいぜ全部、叶えるさ。このオレが」
「あ、ありがとうございます……」
男の手が女の厚いコートのボタンにかかる。ジッパーの方が何かと便利そうなのになあとぼんやり考えつつもラッピングを丁寧にはがすようにコートのボタンを外していく。そこには普段カルデアのマスターが着ている極地礼装に覆われた体があった。
「へぇ、蒼もこれを着ているのか」
「いざという時に、ですね……」
目をそらしながらも女は応える。ああ、と男は感嘆しその礼装に付けられたベルトをかちゃかちゃと外して、二つの扉を開くようにして女の体をあらわにさせた。
「あ、あんまり見ないで欲しい……です……」
重厚に着込んだ服の下にあったのは下着と赤い跡に彩られた白い肌だった。最初に致したときはベージュの無地のブラだったはずが今彼女が着ているのは紺色でレースの飾りがあるものになっている。決して派手ではないが彼女の意志で選んだソレは、暴き立てたものの視線を釘付けにしたのである。
「……オーララ。こりゃまた……」
す、とブラのある位置をよけてたわわに実った二つの果実の狭間に男は自分の顔を埋める。ひゃ、と女の息を飲む音がした。
「―――っ! あ、あーちゃー! その……」
「ああ、すまん。つい……」
すぐに男は狭間から顔をあげる。真っ赤に染まった女の顔は何処か嬉しそうだった。
「その、服脱がすのなら……全部、全部してほしい、です……」
「成程なぁ、全部脱がされたいのか」
「中途半端じゃ、洋服汚れちゃいますし……」
「ごもっとも」
ほら、と男は女の上半身をあげさせる。なされるがままに女が体を起こすと男はするんと女の腕に通ったままであるコートと極地礼装のトップスを脱がせ、ブラの後ろのホックを外させた。何もまとっていない跡だらけの上半身が、部屋の照明に照らされている。ふるふると女の体と胸は震え、その豊かさを示していた。
しかし蒼はおずおずと彼にいう。
「……あの、下は……」
「確かに、そこ忘れていたなすまんすまん」
ほら、と馬乗りになっていたナポレオンはすぐに女の体から降りて彼女のスカート部分に手をかける。グレーの生地に白いラインが一本だけ入っているプリーツスカートは少しだけ折れが緩んでいた。そんな乱れも気にせずに男は女のスカートのジッパーをずずずとおろして黒いタイツだけの姿にさせた。静寂の中で男はごくりと唾をのむ。思わず男はタイツのクロッチ部分に指をあてた。二重の布越しでも十分にその蜜の湿り気は伝わっていてその布は既に下着の意味を成していないも同然であることを示していた。
「既に興奮しているのか」
「……好きな人に、脱がされたらそりゃ、その……きゅんと、なっちゃいますよ」
観念したかのような声で女は言う。くくと男はくぐもった声で笑いながらそのタイツとショーツが二重になっているウェスト部分に手をかけた。
「そうか、きゅんときているのか。思ったことをちゃんと言えて偉いなぁ」
ずり、と女のタイツとショーツを一気に脱がせた。ここに今、一糸まとわぬ女の肢体が生まれたのである。白い肌に赤い口づけの跡が薔薇の花弁のように散らされていて、左腕には赤い跡の下にまっすぐ何本も出来た傷跡ができている。ああ、と男は感嘆を吐いて自分の両手を女の宝珠の先端に載せた。
「きちんといえたご褒美だ」
くるくる、ぐりぐり。主張した先端が男の武骨な指によって弄ばれる。突然のあまい刺激で蒼は思わず目を閉じた。小さな足先がぴくぴく震えている。
「あぅ……ふぅ、あ、あぁ……」
「いい声だなぁ、すっかり溶け切ってショコラのように甘い声で鳴く蒼も、今のように拙い声で鳴く蒼も全部全部大好きだ」
「い、いわないでぇ……もっとはしたなくなりそうで……こわいの……」
「はしたなくなるのが怖いのかい?」
「うん……もっともっと求めてしまいそうで、わがままになっちゃいそうでこわいの……」
「何を言ってるんだい?」
ぴ、と男は女の先端をはじいてやる。ひゃんと蒼が思わず啼いた。
「オマエさんの場合はちょっと我儘なくらいがちょうどいいんだ。求めることに罪悪感とか抱かなくていいんだぜ? ほら」
ぐ、と男は我儘になれない女に近づいてみる。眼鏡以外何も身に着けていない女に軍服姿で迫るそれはまるで征服を示しているようだった。強引に進めずにあくまで両者合意の下で行われる優しいそれは、蒼がどう行動するかにかかっている。ほんの少しだけ蒼は瞳を開いた。
―――やめて、青い目で見つめないで。望んでなったはずの痴態が映るのは、あまりにも醜すぎて耐えられない。
甘い息を吐く。ああ、と女は躊躇い未だに素直になれない自分自身を呪った。それでもまだ敏感な先端は男の手によってぐりぐりとされている。
「あ、あぁ、あぁ……ん……」
「我慢しちゃう蒼もかぁいいなぁ……でも我慢すればするほど苦しくなるぜ?」
「じゃ、我慢できなくなるくらい、とろとろにしてくれませんか?」
湿った声で思わずおねだりをしてみる。あまりにも突然だったか、男の脳裏に火花が派手に散った。どうやら彼女はこういう場であればおねだりという行為は出来るらしい。
「へぇ、じゃあお望みのままにとろとろにとかそうじゃないか。マドモアゼル」
その火花は焔となり、めらめらと男の情欲を燃やした。手始めにまず男は邪魔な軍服をいそいそと脱ぎ始める。サーヴァントがするような霊衣を構成している魔力を霧散させるという方法ではなく、人のように一枚ずつ脱いでいく方法。サッシュも、ジャケットもジレもシャツも床に無造作に落ちていく。下半身はいつのまにか砲身が臨戦態勢になっていることを示していたが、それも開放するかのようにベルトをかちゃかちゃと音を立てて外す。逞しくも傷だらけの体があらわになっていくたびに女の目線はそれに釘づけになっていた。
―――いつみても、あの体はしんぞうにわるい。人の可能性を体現したというありかたをしめす体は、まぶしくてめがつぶれそうだ。でも、あの腕にまた抱かれてみたい。あの逞しい胸の中に飛び込めたらどれだけ幸せなのだろう。彼をひとりじめ出来るのなら、どれだけいいのだろう。
ぐるぐると、蒼の胸の中がかき混ぜられる。彼女の耳にはベルトが地に落ちた音と衣擦れの音が入っている。これからされることに女は顔をまた赤らめて、漏れ出す蜜をごまかすように足をすり合わせた。
「……もう欲しがっているのかい?」
「ちが……っ!」
反論のために女は再び寝台に上がってきた男を見たが、何度見ても慣れない男の体を目の当たりにして思わず息をのんだ。傷だらけであれどギリシア彫刻のように逞しい体、身の詰まったような脚、抱いたものを護らんとする腕、飛び込んできたものを受け止めようとする胸筋。そして、ギリシア彫刻に相応しくないものがあった。それは今か今かと待ち構えている巨砲である。
「あ……あ……」
「まだ、まだだ。まだいれるには早いだろうよ。ぐちゃぐちゃのとろとろに溶け切ってないからなぁメートルのなかは」
ぐわりと女のふっくらとした脚が左右に開かれて女の濡れそぼったそこがあらわになる。そしてそれを固定するかのように女の両足が男の腰に回されるようにして固定された。男の腕は女の腰をがっちりと掴んでいて、ぴくぴくと動く男のそれが女の肌に当たる度に先走り液が漏れ出している。
「んっ……あぅ、ああ、ふぁ……ん」
「もっと、もっと聴かせてくれその声を。甘くて艶やかな息遣い、素敵だ……」
ずりずると巨砲で割れ目をこすってやる。いれられそうでいれられないじれったさが蒼を襲う。ぬるぬるとした液で熱いものがこすられて、あめのような甘ったるい言葉にふられていて、思わず口を開こうとしたがその口を開いた先に踏み込めない。
「ひゃぁ、ああ……んっ、ふ……ぁあ」
女の腕が、伸びる。今彼女の腰を固定させてすりすりと巨砲で割れ目をこすっている男に向かって。男は何かを察したかのように口角をあげたが決して女の手をとることはなく、女の腰を掴んだままだった。
「どうした? その手を伸ばして」
「あっ……あ、あの、あ……」
「何をしてほしいか言って御覧? オレは拒まないし蒼がそうしたいといったことを叶えるからな……?」
ほら、と男はわざとらしくねっとりとした調子で言う。ああ、と女は嘆息した後思い切ったような顔で言葉にした。
「あ、あーちゃーに、触れられたいです。はやく、はやく……そのおちんぽ……をその私の濡れた……おまんこにいれて、欲しいです……ぅ」
言い終わった後、女はぐっと目を閉じて顔を反らす。しかし男の手は自身の腰にまとわりついている女の足を解かせて、自分の逞しい太ももの上に載せるようにした。
「そんな淫乱で猥雑な単語がその可愛らしい唇から出るなんて思わなかったぜ。それがとてもそそるのだが」
きちんといえるようになったご褒美だと言ってナポレオンは蒼の顔を此方に向けさせて口づけを落とす。触れるだけから啄むように、それから絡み合うようなそれはさらに二人をとろとろにしていく。息継ぎするたびに夜空のような女の瞳と青空のような男の瞳が互いの空に映る。互いの名前を呼ぶ声ですら、既に爛れている。
「……蒼、いれるぞ……」
口づけで蒼が溶けているその隙にずぶずぶとナポレオンの巨砲が蒼の濡れた壺へと入っていく。何度も体を重ねてきたからかその壺は巨砲の形を覚えていて、ぴたりとそれに合うように中がそれにしがみついてくる。思わず蒼は自分の腕を男の背中に絡みつかせた。男はそれに応じるようにゆっくりと女の体に覆いかぶさる。
「あんっ……! やっぱ、おっきい……」
「ったく、そうかい……オマエさんの中、やっぱり締め付けと形、とてもいいぜ……! 今すぐかき回してしまいたいくらいには、な……!」
ゆっくり、ゆっくりと巨砲が中に入っていく。そのたびに女の声から甘ったるい声が漏れるもすぐに口づけで封じられる。上の口と下の口がとろとろになって互いの液体が混ざり合っていく。
「あぁ、しゅき……だーいすき……じゅ、てーむ?」
「なんで疑問符つけてるんだい? ほーら、もっと自信満々に、な?」
「じゅ、じゅてーむ……じゅてーむ……」
「そうだ、そうだ……その調子だ、蒼……Je t’ aime. Je t’ aime……」
愛してる。その言葉を交わしながらずぶずぶになっていく。そしてぴたりと巨砲は奥まで入り切った。女の中はそれにあつらえたかのようにぴたりと巨砲を包んでいて、離さない。
「ほーら、全部入ったぜ? 上手く蒼がおねだり出来たおかげだな」
よしよしと男は目を細めて優しい口づけをする。子供のように蒼はきゃっきゃとほころんでへにゃりと笑った。
「あり、がとうございます……」
「どういたしまして、お姫様」
とくん、と蒼の心臓が高鳴った。ああと思わず小さな女の声が漏れる。これみよがしに男はにっと白い歯を見せた笑顔になる。それはまるで食べごろまでお行儀よく待っていた獣のようだった。
「さあ、動くぞ」
その言葉を合図に男はずるずると巨砲を肉壺から抜き出そうとする。肉壁にそれがひっかかる度に甘い嬌声を女はあげる。
「あ、ああ……ぬいちゃ、らめぇ……!」
「全部抜きはしねぇよ……ほーら、ちょっと待ってな」
そう言って男は砲口だけ入れたそれを一気にまた奥へと入れてやる。ぐちゅり、と液が漏れ出す音がしたと同時に何度目か分からない女の喘ぎ声がマイルームに響く。
「んぁぁ――っ!」
「いい声だ……。ほらもっともっと……気持ちよくなってくれ……」
ぐちゃり、またくちゅりと挿入音が響く。そのテンポはだんだん早くなり、パンパンとした音へと変わっていく。
「あっ……あー、ちゃー……おく、おくすごいのぉ……! あなたのおちんぽ気持ちいいのぉ!」
「そりゃあなぁ、オマエさんの中が気持ちよくて、反応もぜーんぶ可愛らしい上にそそる、からなぁ……!」
白い布地に落とされた墨汁のように快楽が蒼を襲ってくる。喘ぎ声から湿った溜息交じりの声にならない声まで楽器のように鳴らし続け、体もすっかりそれに慣れ切っているのか男の逞しい背中に必死にしがみ付いて爪痕を立てていた。綺麗に短く爪を切っているはずの手で、ぎぎぎと立てていた。その痛みすら気にしていないのか、はたまた痛みを受け止めるためか男はずっと笑っている。
「ぐっ、ああ、天にも、昇りそうだ……」
「あ、だめぇ、あ、ふぁぁ……!」
ぎゅ、ぎゅと出し入れしてるさなかにも、女は自分の足で男の腰に纏わりつくようにしがみ付いている。
「あ、なぽれおんしゃんの、おちんぽがとーっても、がんがんわたしのきもちいとこついてて、おかしくなっちゃうよぉ……」
「ああ、思う存分おかしくなれ、ほらほら……っ!」
「あんっ、あ、あぁんっ! や、あぁぁああ……!」
ぎしぎしとベッドが軋む。あんあんと女の嬌声が響いている。くぐもった男の声が響く。ぱんぱんと肌がぶつかり合う音がする。ずちゅずちゅと出し入れする音がした。既に蜜と先走りがまじりあったものがつなぎ目から漏れ、シーツに染みを作っている。そんなことを気にせずに一対の男女はベッドで絡み合い、ただ互いを貪りあっている。
女は唯ぴくぴく、がくがくと腰を揺らして浅い息で男に縋る。その有様は男の目からしてみれば既に限界に近く、いつ果てるか分からないくらいだった。そしてそれはナポレオン自身同じことで既に大砲はいつ暴発してもおかしくない。
「すき、だいすき……あ、じゅてーむ、じゅてーむ……こわれ、こわれちゃう……!」
「オレもだぜ? 喰らい尽くしたい程に愛してるし……オレも、もう限界だ」
低く、舐めるような声でとどめを刺す。ふるふるとした柔い胸は男の胸筋に押しつぶされ、形をいびつに変えていく。ちゅ、ちゅとまた男は女の細い首筋に赤い跡を散らしていく。普段着ている服装で隠れて見えにくいところばかりに落としていくという点で彼なりの心遣いは失われていないようであるがそれでも、今度は歯形も添えていく。がり、と大きく少しだけ鋭い大人の男の力で立てられるそれは少しだけ痛く、真っ赤な円形の跡を残していく。蒼はその跡を歓喜のまま受け取り、ただ喘いだ。
「んぁ、ああっ……あと、うれし……すきぃ……」
「そうかそうか、跡残されるの大好きだからなぁおまえさんはぁ……っ!」
「だーいすき、だーいしゅきでぇす……!」
「嬉しいねぇ……素直でたいへんいいことだ、なぁ……っ!」
がつん、とひときわ圧迫感が強くなる。ぱん、と二つの砲弾が柔い肌にあたる。
「あ、あぁん……あ、いく、ひゃ、いああ、いっちゃうよぉ……!」
「いけ、思う存分いっちまえ……」
深く、えぐるように砲身が女の奥にはいりこむ。瞬く間に女の思考が白く、塗りつぶされた。
「あ、あ、ぁ、なぽれおんしゃ、いく、あ、ああぁぁぁああああ―――!」
「蒼……ぁ、あ、出すぞ―――っ!」
ぎゅ、とこれ以上ない程に愛する男の体にしがみついて快楽の波におぼれていきながら蒼は達した。全ての刺激と感覚を逃さないようにしがみ付いて、長い波におぼれていく。中もそれは同じことであり奥に砲身を入れていた彼はその余波に身をゆだね、中に自身の白く濁った欲を放った。
◆◆◆
「あー、ちゃー」
全てのことが終わった後、何度も何度も愛を語らった。貪りあうようにして、体勢を変えて。ナポレオンは既にその欲の海から抜け出せたのかベッドにて葉巻を吸っているが未だに蒼はその余韻から抜け出せていないからか寝床で横になっていた。
「わたし、すなおになれました?」
ぽつり、と呟くようにして彼女は言う。今回の全ての元凶であり、その克服のために動いたことは完遂できたのか彼女自身分からない。故に自分自身をよく知っている彼に問いかけることにした。
「さぁ、少なくともベッドの上では素直になれたから問題ないんじゃあないか?」
ベッドサイドに置かれてある葉巻置きにそれをおいて彼女に寄り添うようにして布団に入る。そして女の頭を優しく撫でた。
「そう、でしたか。でも自分から、うまくきりだせなくて」
「それも、きちんと出来てたぜ。自信を持っていい」
「……ありがとうございます。ちょっと安心しました」
ぴたり、と男の傷だらけの胸に顔を当ててみる。香水と煙草が混じった匂いが彼女の鼻腔を撫でた。
「ああ、あんしんします……ほんとうに、ナポレオンさんは、とても……ええ……」
「言葉に出来ないくらいか、麗しい婚約者にそう言って貰えてなによりだぜ」
「もっと、もっとわたしはすなおになっても、いいんですよね……?」
「ああ、思ったことを出していいんだ。ずっと、抱え込むのは辛いからな……」
ぎゅ、と男は女を壊れ物を扱うように優しく抱きしめる。途端、一筋の涙が女の目から零れ落ちた。
「よかった……」
まるで、つきものが落ちたかのような声がした。男はただ、女を護るようにして抱きしめてその夜を過ごしたのだった。
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