「星が見たい」
今宵が唐突にスティーブンにおねだりをする。それは彼女にとっては珍しいことで、あまり彼にモノやことをねだるということがなかったため、スティーブンにはかえって新鮮に思えた。だが、ここHLでは星空というものを拝むことは叶わない。
「そうしたいのは、やまやまだが……、今宵、ここはヘルサレムズロットだ。常に霧に覆われているから星空は夢のまた夢だということは分かっているはずだ」
「ええ、そのつもりです。故に私はこれを買ってきたのです」
そういいながら今宵は包装紙に包まれた立方体を取り出した。
「じゃーん、ホームプラネタリウムというものです。これなら、スティーブンさんと一緒にいつでもどこでも星を見られるという優れものです」
「いや、部屋の中じゃないとだめだよね、それ」
「分かってます。だから」
びりびりと包装紙を破き、箱を開けて支えが付いた球体を取り出し、スティーブンに押し付けつつ、こうねだった。
「もし、早くライブラのお仕事が終わったらですが、貴方の寝室で星をみませんか?」
「……はやく終わったらでいいかな」
「やった!」
そして彼らは服に着替え、夜のお楽しみがあるからか、少しだけ浮足立って部屋を後にした。
◆◆◆
「本日も何事もなく、仕事が終わりましたね」
「ああ、これも君の働きのおかげだ、ありがとう」
帰宅後、簡単に夕食をとって二人は寝室に入る。部屋は暗く、窓からは相変わらずの喧騒なる街並みが見えるが、天体観測の邪魔になるからといって今宵はカーテンを閉めた。
「真っ暗じゃないと、あまり見えないんです」
「そういうものなのか」
パチリ、と部屋の証明を落とし、ホームプラネタリウムをコンセントに差し込む。
「見ててください、スティーブンさん!」
台座近くの電源ボタンを押すと、天井には満天の星空が映し出された。暗い中に光る人工的な夜空。これは霧の街では滅多にお目にかかることが出来ないものだ。
「……久しぶりだな、こういう空は」
立ったままスティーブンは頬をほころばせて呟く。琥珀色の瞳に光るものを映し、ただ静かに感激していた。
「でしょう?実は、私もなんです」
「君のふるさともあまり星が見えないのか?」
「ええ、この街と同じように人工的な光が多くて……、冬の大三角しか見えなかったのです」
「そっか」
小さい星空を、二人きりで見上げる。それはまるで日常のような非日常を見ているようだった。
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