「……そろそろ下校時間ですよ、名字さん」
体がはげしく揺さぶられる。突っ伏した顔を上げると既に空は紫に染まっていて外からは部活の人たちが引き上げるような様子が聞こえてきた。声がした方へ顔を向けると教頭先生が穏やかな顔をして私のことを見つめていた。おそらく先生が起こしたのだろう。ごめんなさいと詫びると先生はそれを問題としてないかのように肩を優しく叩いた。
「夕方に寝るとは珍しいですね。……でも夜眠れなくなりますがそこは大丈夫なのですか?」
どうせ夜更かししますから、と告げると先生は首を横に振りいけません、と諌める。
「寝坊したらいろいろなことに響きますよ。進路や体調、信頼関係にも……」
進路。もう考えなければならないのか。今のことで精一杯であるというのに。体調はまだしも信頼関係は……唯一の人とのそれが壊れるのは、いやだ。それはそれとしてどこか空っぽで胡散臭い先生に信頼関係を説かれるのは少しだけ釈然としないが。
「ともかく、もうすぐ下校時間です。早くまっすぐ家に帰りなさい」
先生に促されるままぼやけた頭で机に出していた勉強道具をカバンの中にしまい込む。先生も姪のことや警備など色々あるから大変だろう。そのうえで――よく私と関わっている。故に唯一の学校の楽しみとしてる人からこう促されては言う通りにしないといけないだろう。
はい、先生さようなら。ええ、また明日。
誰かが見てるかもしれないから、頭を撫でるだけ。ああ、今日も学校にきて良かった。いつか終わる最後の日まで、きちんと行けたらいいなと願いながらも私は虚ろなる灰色の教頭先生を一瞥しながら教室を、出た。
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