2-1 Radiunlimited Mic Performance

after/The night

 side:eraser-head

 

 事情聴取が終わった後、逸れた彼女を迎えに来た担任と思しき女性がやってきた。一先ず良かっただのもう大丈夫だのと女性が声をかけようとも彼女はただ、光のない目で空っぽの返事をし続けた。その後彼女は深々と礼をした後、こちらを一瞥しながら担任の先生に連れられて何処かへと去っていった。彼女はただ風景を捉えるような目をしていた。
 その様子を見届けた後で俺は自宅兼事務所に帰還した。服を脱ぎシャワーを浴びながら今日あったことを簡易的に反省がてら振り返る。まず電話で敵発生の知らせを受けて現場に向かおうとしたら伊織と名乗る少年に声をかけられた。「サンタルチア教会で雪を投げるお姉ちゃんが取り残された」「どこかの制服姿でヒーローではない」という場所と状況は得られ、自分たちは助けられたがその代わりに彼女が迎撃したと泣きながら訴えられた。一般人による、自己犠牲。そんなものは――あっては、ならない。
 少年に返事をするより気づいたら足は教会の方に向かっていた。そして――雪が残る聖堂前にて、敵に襲われていた一般人を見つけた。いつも通り敵を捕縛して、一般人を助け出す。そこまではよかった――が、問題はそこからだ。
 彼女は怪我をしていた。タイツは破れていて白い足首は酷く腫れていた。よくて捻挫悪くて骨折といったところだがそこの詳細は医師に任せるとして、彼女は最初痛みを訴えようとはしなかった。その上、質問への答えも嘘をついていないようで何かを覆い隠している。かくなる上は――何故、助けてくれたのかという質問。これに関してはよくあることだがその質問をした彼女の様子が、引っかかった。光はなく、言葉にするための唇は震えていて、声に抑揚はなかった。
「―――ったく」
 自己犠牲、暗い目、痛みを訴えないという非合理的な行為をした理由。もう交わることはないかもしれないが、それでも彼女のことが気になって仕方がない。ただ、今はそのことについて考えるときではない。
 頭を冷やそう。勢いよくシャワーの温度調節を青いゾーンに持っていく。冷たい小規模な雨が静かに脳をなだめていった。

 

 第二章 俯瞰再生――You are my NO1

 

 side:she

 

 既にあのときした捻挫を治すための包帯は取れ、脳内に残る痛みはあの移動教室を終えてしばらく経過した後も消えることはなかった。地獄は苛烈さを増し、左腕の傷跡も増えていく中でボロボロの手作りマスコットを監視役に据えて亡命の準備を進めることにした。
 耳には有線イヤホン、手には筆記具。深夜帯にだけ繋がる別世界の音を聞きながら選択肢を広げるための勉強を進める。今までだったら夜間飛行ラジオを流していたがあの夜以降、ヒーローFMにダイヤルを合わせるようになった。そして今日は金曜深夜。……あのプレゼント・マイクのラジオの時間だ。ご機嫌な彼のハイテンションなボイスがラジオ番組の開始を告げると共に私の眠気は木っ端微塵に破壊された。
 深夜の時間にだけ許された孤独の共有。自分の抱えているモノが存外小さいものであることを認識しながら手元の問題集の答え合わせと見直しを進めていく。そういえば、今週は新しいコーナーが始まって……なんとか相談室だったか。それに投書したが読まれるのだろうか。勢いでラブラビットというラジオネームにしたが大丈夫だろうかなどそう思った途端赤いインクで統一されたボールペンが止まった。
 ノンストップで次々とコーナーが進んでいく。丑三つ時になった途端、ごきげんなBGMがピタリととまった。少しだけためらったような息遣いの後――彼は告げる。
「さぁてお次は新コーナー!『リスナップ相談室』! このコーナーはリスナーの相談にこの俺プレゼント・マイクが基本的になーんでも答えるコーナーだ!」
 きた、彼の新コーナー。基本的に、なんでも、匿名で答えるというコピーにつられて深夜テンションで投書したのはいいが読まれるかどうかすらわからない。コーヒーを啜りながら静かに彼の声が私のラジオネームを読み上げるのを待つ。そして――いよいよ、最初の質問が読まれるときがきた。
「さて記念すべき1つ目の質問だが……ラジオネーム『ラブラビット』から」
 ――読まれた。
 思いっきりラジオネーム読まれた。
 変な声が出る前に口を覆う。勢いあまって――ラジオごとベッドへと飛び込んでしまった。
「『私はあるヒーローに助けられました。もし聞いていたらどうか伝えてください。本当にあのときはありがとうございました。その上で相談ですが私はそのヒーローに恩返しをしたいです。ですがそのヒーローの活動地域と私の居住地域は遠いです。遠くからでもできることはありますか? またプレゼントマイクさんはどんなことされたら嬉しいですか?』
 フーム……まずはラブラビットを助けたヒーロー、サンキューな。それで本題だが……あくまで俺の考えになるが日常をきちんと過ごす。それだけで十分な恩返しになってるぜ。俺たちヒーローはリスナーがなんでもない日々を守るのが仕事だ。そしてそれを見るだけでも十分頑張れるってものよ。
 ただ、何をもって恩返しとするかはラブラビット、お前自身が決めろ。日常を過ごすもよし、そのヒーローを迷惑にならねぇ範囲内で応援するもよし、ヒーローを志すもよし。道を踏み外さねぇ限りどんな選択をしようとも恩返しにつながるぜ、ラブラビット。さてネクストレターだが……」
 人に名前を読まれたというだけで、心はこんなにも跳ねるものらしい。たとえそれが素性を隠すためのものでも同じだった。
 ゆっくりとラジオ越しのヒーローが言ってたことを反芻する。日常を、過ごすだけでも恩返しになるのなら――まだ死ぬわけにはいかないのだろう。
 ぼんやりとそう思いつつ日常ジェヘナから抜け出すために再び起き上がる。そしてまた、赤ペンを手に取った。

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