3-2 in front of underground

「失礼しまーす……」
 呼び出された建物の一室につながるドアを静かに開ける。その先にいたのは、警察の人と三人のヒーローだった。
 礼儀正しそうな警察の人に鳥類を思わせるような金髪サングラスヘッドホン男にグラマラスなミストレス。そして――思ったより早く再会するとは思わなかった黒い男イレイザーヘッドがそこにいる。腕時計の時間を見ると約束の十五分前を指していた。
「――嘘でしょ」
 場所を間違えたか、それとも悪質なドッキリであるのか一瞬よぎったが確かに電話でここに呼び出されて、いろいろ話し合いをすると説明されたのは事実。公的機関が無意味なことをするはずが、ない……かもしれない。改めて入室するため静かにドアを閉めた。
 静かに深呼吸をして、切り替える。
 中学受験での面接をした時のことを思い出しながらドアを三回叩き――
「失礼します。ベラスニェーカ、只今到着しました」
 自らの身分を名乗り、本当にやってきたことを告げた。ドッキリであればそのとき考えて、本当に話し合いであるのならば真剣になる。それだけの話だ。
「どうぞお入りください」
「失礼、します」
 促されるままに一歩、足を踏み入れる。八つの瞳が一斉にこちらを向く。視線が集まるとき、感じたことのないような重みが両肩にのしかかった。
「よく来てくれた、ベラスニェーカ」
 警察の人が口を開く。それに続くかのように金髪ヘッドホンの男とグラマラスな女性がしゃべり始めた。
「あーあー、俺ぁボイスヒーロー『プレゼント・マイク』ってんだ。よろしくな」
「私はミッドナイト。よろしくね。それで……そこにいる黒い男がイレイザーヘッドよ」
 ほら、とプレゼント・マイクさんとミッドナイトさんがイレイザーヘッドに何かを促すように肘で小突く。ゆらりと小突かれた彼はこちらを向き、右手を気だるげに上げた。
「……よろしく」
 あのラジオの手紙を読み上げてくださった人と教科書で読んだヒーローコスチュームの一件の女性が、――すべての始まりのひとが、ここにいるという現実に浮かれる心を自分で叩きのめして深く頭を下げる。どうどうと頭をあげさせられた後でイレイザーヘッドは徐に口を開いた。
「それで――俺たちを集めた本題とはなんでしょうか」
 流れるようにイレイザーヘッドが警察に視線を移す。その先にいた警察官は咳ばらいを小さくしたのち、手元の書類に視線を落として口を開いた。
「それについてですが……イレイザーヘッドとベラスニェーカが先日拘束したサイレントシネマが取り調べの結果、連続ヒーロー闇落ち事件の首謀者と目される指名手配中のヴィラン『ペーパームーン』につながる情報を持っていたことがわかりました」
「――そう、ですか。それで」
「近々この街にてペーパームーン直属の部下主催のパーティがあるとのことです。そこに潜入すれば彼の目的並びに所在などがわかるかもしれない。そして――どうやってヒーローを敵にしているのかも暴けるかもしれない」
「そんなうまい話がありますかね」
「罠だとしても、入る必要があります。そこで……ですね」
 びし、と警察は私とイレイザーヘッドを交互に指さす。私たちは互いに顔を合わせるも、要領を得ないような視線を交わして再び警察のほうへと向き直った。
「……どうか、二人一緒に潜入してほしい。イレイザーは地下世界に詳しい上に荒事にも対応できる。ベラスニェーカは荒事に対応できる上にまだあまり顔を知られていないからこそ、お願いしたい」
「つまり荒事の可能性がある上に裏側に詳しい俺と情報の少ない新人でチームアップしろ、ということですか」
「そういうことになる」
「待ってください待ってください。それならば私とイレイザーヘッドさんだけ呼んで頼んだほうが……」
「それに関してはあいつ断るだろうからなー。そのための俺とミッドナイトというわけだ。それと一種のサポーター的な役割ってわけよ。ベラスニェーカ。念のため俺たちも協力する、というわけだ。Huh-Huh?」
「マイクの言う通り、私たちもサポートするわ。ヒーローが敵になる事件、これ以上防がなきゃいけないからね」
 勢いよく、話が進む。
 ヒーローが敵に寝返るという一大事の根源につながりそうな場所へと潜る仕事。そして――こともあろうに彼とのチームアップ。どうにかしなければ社会を守るべきヒーローが減っていくことは容易につく。飽和社会であろうともヒーローが減ってしまえば――助けられるものも、助けられなくなるだろう。そうなれば、人は助けてというサインを出せなくなる。
「私、は――」
 ちらりとイレイザーヘッドのほうを見る。何も言わずにただ小さな瞳を私に向けていた。
「――やり、ます」
 ふり絞るように、そして震えが伝わらないように静かに宣言して深く頭を下げた。
「彼女はこう言ってるけどイレイザー、お前はどうするんだい?」
「まぁ俺一人でもいけますがチームアップしてくれ、ということは……二人一緒じゃないと入れないところがあるということですかね」
「ああ、そうだ。情報によるとそのパーティは必ず二人一組で来るようにと決められているそうだ。勧誘か人員増やしかの狙いがあると見ていいだろう。だからこそ――君たちの力が必要なんだ」
 警察の目がイレイザーさんをじっとみる。うつむいて、しばし何か考え込んだようなそぶりを見せた後、顔を上げて少しだけ唸る。
「……わかりました。荒事ならまかせてください」
 眉一つ動かさず、彼はそう返した。
 視線だけこちらの様子を窺うように向けた後、再び警察のほうに視線を戻す。
「ありがとうございます。それでは予想される日程と時間は判明次第連絡しますので今日のところはこれにて……」
 そういって警察の人は私たちに退出を促す。そうされるがままに私たちは集まって部屋から出た。

 

 

「ところで……確認の意味で尋ねるけど潜入用の服って持ってたりするかしら?」
 退出したての廊下にて、何か浮かんだかのような笑顔でミッドナイトさんは切り出す。イレイザーさんはため息をつき、気だるげそうなそぶりをした後で返す。
「んなわけないですよ」
「うん、イレイザーは知ってるわ。いつも同じような黒い服だものね。ベラスニェーカは?」
「……恥ずかしながら、持っていません……ほぼヒーロースーツの替えか普段着しか……ないです……」
「ハーハァ……なるほどなぁ……」
 ミッドナイトさんとプレゼント・マイクさんが互いに顔を見合わせたり、こちら側を見たりする。考え込むように唸ったり百面相をしたりしたのち、にやにやと口角をこれ以上ないほど上げて声高らかに宣言した。
「それであれば――アレ、するしかなさそうね」
「ああ、アレの時間ってやつだ」
「――おい、まさか――」
「そのまさかだぜイレイザー!」
「ベラもついていきなさい。これからチームアップするわけだし互いに互いのことを知るも兼ねて――出かけるわよ! 『装備品』調達に!」
 

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