7-3

 一方その頃、クラウス・V・ラインヘルツとレオナルド・ウォッチは礼服を身にまといあらゆるものを吟味していた。無論、モノを落札するためではなく目的の『商品』がいまそこにあるのかを探すためである。ズールディーズのときと同じように気づかれずに、静かに品を観察する。
「共有された彼女の情報によると……無法のモノを取り扱うオークションでかつ夜の神に纏わるラベリングをしているそうです。無法の中でもまともなレベルのノート、食べ物を取り扱うオチミズ、それなりに扱うとまずいモノがニュクス、そして――めったに出ない条約違反の代物がヨワリ・エエカトル……あれ、今回の目録にはないですね……」
「……目玉だから取っておくというのもあるかもしれん。ただそれならどこにあるかというのを今頃スティーブンたちが探し出しているころだろう」
「――そう、ですね。でもこちらでも……ん? 暗転?」
「―――何を、はじめるつもりだろうか」
 会場は突如暗転し、レオナルドは唯一照らされている特設ステージへと視線を向ける。そこいたのはスレンダーな赤いドレスを纏った黒髪の女性だった。遠くからでも彼女の目と口がわかるくらいのはっきりとした化粧が施されている。
「本日はオクタズ・オークションの内覧会にお集まりいただき誠にありがとうございます。私はこのオークションを取り仕切らせていただきますオクタヴィアと申します」
 ねっとりとした声で壇上のオクタヴィアは人類と異界人が集うホールに向けて挨拶をした。割れんばかりの拍手が巻き起こる中クラウスとレオナルドは動じず、ただ彼女の次の言葉を待っている。
「此度のオークションもまた、法律の境界を歩むようなものたちを多数取り揃えております。そして――目録にはございませんが、今回はなんと、あの! ラベリング:ヨワリ・エエカトルの品が出品されます!」
 声高らかに彼女が言うや否や再び拍手が鳴り響く。それに呼応するかのように更に一段とオクタヴィアは声を張り上げて手を舞台の袖に向けた。
「それでは――どうぞ!」
 そうオクタヴィアが告げると黒服の男がガラガラと黒い布をかけられたものをステージ上に搬入してきた。少し大きな箱で工夫すれば人が一人分入るくらいの大きさで、今その箱は聴衆の視線を浴びている。その視線の中には神々の義眼によるものも含まれていた。
「……見えるか?」
「見えます――いや、これは―――! 早く伝えないと!」
 レオナルドはそう言ってスーツからスマートフォンを取り出して急いで文字入力をする――が、それと同時にぱちんと壇上にて指が鳴らされた。
「御覧くださいこちらがラベリング:ヨワリ・エエカトルの本日の目玉――消去機能イレイサーヘッドなきハードディスク『シェースチ』でございます!」
 黒服が布を勢いよく剥がす。
 光を浴びる中その布のしたにあったのは――檻だった。
 そしてその中に収納されているのは何一つものを言わない黒髪の女。
 その女は舞台から観衆をみることはなく、ただうつむいてじっとしていた。
「――あれは……ミズ・サカモト――!」
 そうつぶやくと同時にクラウスは走り出す――が、舞台の上から一人の男が勢いよく飛ばされて剛速球のように彼のみぞおちに直撃する。
「―――っ、ぐ……!」
「あ――――――――っ!」
 低くくぐもった2つの低い声が静寂の中響き渡る。目深に被った帽子がはずれるも暗い照明のなかでは誰だかわかることはない。その下の世界を見下すように女はマイクを通して声を上げる。
「商品にお手を触れないでくださぁい」
 その言葉と同時に弾力のある触手がうねうねと舞台上にて踊りだす。そして何事もなかったかのようにオクタヴィアは檻の上に手をおいて中の『商品』をプレゼンし始めた。
「さて、皆様、こちらの人の形をしたハードディスクは人の形をしていてそれなりに人の心なるものを持っておりますがきちんとしつけることにより持ち主に忠実なメモリとなります。もちろん消去機能がないため忘れることはありません。付加価値もつけるとなると―――色々な情報がプリインストールされていてかつ、持ち主の色に染め上げることも可能です。あなただけに仕える情報記憶媒体シェースチ、此度のオークションにて出品いたします」
 もちろん、今日はただの商品お披露目だけですよぉ? と作られたような甘ったるい声で女はしめる。口笛と拍手が巻き起こる中三人はただ、壇上の女と檻の女をじっと、見据えていた。
「そして今回プロデュースした我らが記憶王もこの会場にいらっしゃるようなので1つ、挨拶をしていただきたく思います」
 そう彼女が言い終わると同時にステージの上に黒い泥が溢れ出す。一箇所にとどまり続けているその表面からゆっくりと、一人の男がきれいな姿で現れた。スーツ姿に月桂冠を被った単発の壮年男性は、アイスブルーの瞳で一瞥した後徐ろに口を開く。
「ようこそ、オクタズにお集まりの皆さん。私がこちらのハードディスクのプロデュースをした『レクス・メモリアエ』と申します。本来なら早速このシェースチについてもう少し詳しく……と言いたいところですが少し、予定にない参加者がいるようで」
 パチン、と男は指を鳴らす。それを合図にスポットライトがクラウス達に当てられる。
「彼らはどういうわけかここにいてこのオークションを妨害しようとした。故に排除のため少しあら事を起こしますがご理解ご協力のほど宜しくお願い申し上げます」
 その言葉を合図にオークション参加者たちは続々と手持ちの武器を取り出し、クラウスたちを取り囲みじわじわと距離を詰めていった。

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