「はい、抜き打ちで身だしなみ検査しますよー」
風紀を取り仕切る先生と思しき人が、授業中にやってきた。名前を呼んではいけない人のような反応を示した生徒たちは促されるがままに廊下へと立たされてその日を待つ。厳しすぎると規則を糾弾するもの、隠ぺい工作に励むもの等が大人しく判決を待つ列に並ばされる。内ポケットが問題になることはまずない。スカートの丈もひざ下に合わせているし、前髪もきちんと切りそろえているから大丈夫だろう。
私より一つ前にいた生徒はもっと髪の毛のアレンジをしろと小さな恨み言をつぶやきながら教室へと戻る。次は、私だ。
「次、名字さん」
「はい」
規定通りに先生は頭からつま先まで、私の生徒としての姿をまじまじと検査して、バインダーに挟んであるチェックシートにカリカリとペンを動かす。特段、何も聞かれることなくブレザーの中を追及されることもなく無事に、検査を通過した。
胸を一人なでおろす。三角定規であればまだしも剃刀はさすがに言い逃れはできないからこそ何事もなく、無事に通過出来た。
一気の緊張の糸が緩んだ心地で教室へと戻る。何も見えていなかったのか――進んだ先には誰かにぶつかった。
「また、前を見ていませんでしたね。貴方は」
「せん、せい……」
ぶつかった対象を見上げるとそこにはあの教頭先生がそこにいた。大きな手が私の両肩に乗せられて、後、教室の出入り口のほうへと無理やり方向転換させられる。
「教室は、あっちですよ」
神経集中地帯に、別の人の手が乗せられている。溶けそうで、力が抜けてしまいそうだ。
同級生の噂曰く彼は胡散臭い上になんか大切なこと相談しちゃダメな気がするらしい。言われてみればそうかもしれない……が、実際に相談にのるといわれなければわからないだろう。いくら信用できなくとも、追い詰められていればどんなものにも救いなるものを求めるかもしれないから。
「は、はいごめんなさい!」
「わかればよろしい。ああそれと――放課後、名字さんに少しお話があります。相談室にてお待ちしてますよ?」
いいですね? と重油に浮かべた純水のような笑みに気圧される。疑問符を頭上に浮かべながらも首を縦に振り、何かやらかしただろうかという身に覚えのない罪について午後の授業中支障ない範囲内で考えることになった。
◆
「失礼、します」
「どうぞ、こちらに座りなさい」
西日の差す相談室にて、柔らかいソファに促されるがままに腰を掛ける。透明な長テーブルをはさみ教頭先生の真正面へと座る。彼はいつも通りにこやかに
「最近どうですか、名字さん」
「そうですね……特に変わりなく、過ごしています」
「それはなにより。それはそれとして少し西日が差し込んでいて暑いでしょうからブレザーを脱いでもかまわないのですよ?」
「いえ、大丈夫ですから」
「失礼ですが……鼻の頭に汗が浮かんでおりますよ。体温調節を誤って体調崩す、なんてことはあってはいけません」
「いえいえいえいえ、大丈夫です大丈夫です。私はこの通り……」
「脱ぎなさい。そしてこちらに渡すのです」
小さく、笑顔を浮かべたまま低く重い声色で教頭先生は告げる。首を横に振らせないと言わんばかりの重圧がこの狭い部屋の中にのしかかる。
「どうして、ですか」
「どうしても何も、もうすでに貴方が何を隠し持っているのか見当がついているからです」
ブラフだ。持っているかどうかの反応を探るのだろう。だが持っていないというのなら素直に提出すればこの呼び出しは短くす――むわけが、ない。
逃げよう。だめだ。逃亡するときに不都合が起こるかもしれない。
そもそも――目の前の男の人が、その緑と赤の目で私をしっかりと見ている以上なぜか、動くことすらはばかられる。どうすれば。
「何もやましいことがなければすぐに、脱いでこちらに渡しなさい」
教頭先生が立ち上がり、彼の手が私の左腕に触れた。私はそれを反射的に払いのけた。
「あ――!」
「……大丈夫です。この部屋で起きたことは誰にも言いませんよ」
再び、先生の手が私の左腕に優しく触れる。いたわるように、あわれむように。
「この私が、全て受け止めますから一度吐き出してごらんなさい。名字さん」
先生の長い腕が私のほうに再び伸ばされる。スーツの上からでもわかるくらいに太くてたくましい男の人の筋肉が伸縮して、彼の手は私のブレザーの釦へと触れようとした。
「何も、ないですから――!」
柔くて繊細なところに触れそうで触れないくらいの距離まで彼の手が近づいて、そこから離れたくて振り払い、立ち上がろうとする――が、気づいた時には後頭部はふかふかのソファの背もたれに押し付けられた。息がかかるほどの距離、ピントは合わずに今どうなっているのかは現時点では不明瞭。ただ、今どうなっているかだけは想像はつく。
「先生……机の上に乗るのは、流石にまずいと思います……」
「そんなこと、生徒の命の前では些細なことです」
ぼんやりと風景をとらえるような目で教頭先生は対象を見つめる。一歩ズレれば非常にまずいことになりそうなほどの距離、片腕には男の人の力がかかっていて自分の脈がどうなっているのか筒抜け状態。やけに頭が静かになりゆく中で先生の分厚い上半身を直視している状況、そして彼は今何をしようとしているのかを考えた途端ガチャガチャと心臓の歯車がうるさくなりそうな予感がする。
「失礼します。名字さん」
教頭先生は丁寧に片手で釦を外していく。無骨で太い指が触れるたびに何かが開いてしまいそうだがここで開いてはいけない気がしたので懸命に堪える。
一つ、一番上の釦が外れる。特に何もない。
二つ、真ん中の釦が外れる。内ポケットに色々入れていたからか大きめにたわんだ。
三つ、最後の釦が外れる。綺麗に、左右の前見ごろは滑り落ちて中にきているブラウスとベストがあらわになった。
「結構人より多く内ポケットにものを入れてますね? しかも布の張りからして固くて薄い物……文庫本ではなさそうですが」
大人しく何を入れているかいいなさい、とぞっとするくらい低く甘い声で耳元でささやかれる。思わず目をつむり、体を縮こまらせた。
「いや、です」
「いやですか……この私を、信じていないと」
「誰も、信じてません。みんなどうせ裏切りますし」
「そんなに私のことが信じられませんか?」
「……おそれながら」
そう私が答えると先生は手を離す。ほっとしたのも束の間で――先生が机の向かい側に戻った時、やけに自分のブレザーが軽くなっていることに気づいてしまった。隠しポケットのあるあたりをなでるとあるはずのものがなくなっていた。
「先生……!」
「これが、貴方が隠していたもの、ですか……」
プラスチックのカバーでおおわれた剃刀、透明で厚い三角定規二つが綺麗にお得意様に出すもののようにロングテーブル上へ並べられている。そしてそれらはとても見覚えがあるものばかり。傷の位置、色のあせぐあい。よく、しっている。
「腕を見せてください。名字さん」
さあ、と目の前の先生は机へと乗り出して一気に息のかかる距離まで近づいてきた。私の右手首は、先生の左手で押さえつけられて足には先生がまたがっている。まるで、拘束するように。
何が起きたか脳は認識する間に男の人の指はブラウスの袖の釦にかかる。左腕のそれが、緩められて思わず目をつむった。
「――捲りますよ」
教頭先生がそう告げた後、私の左腕が一気に外気に触れた。
ああ、と先生は感嘆を吐きながらその指で腕の修繕跡をゆっくりとなぞる。絆創膏越しに触れられた途端、私が生きているという信号が脳へと走った。
「誰にもいいません。ですからどうか、私にだけこっそり教えてください。名字さん」
耳元で子供をなだめるように問いかけられる。ぞくりとした途端、枷が一つ音を立てて落ちたような気がした。
「あーーーあ……あ……」
息継ぎするように、口をひらく。それと同時に声がこぼれた。どういうかおを先生がいましているのかわからない。ただ、先生が息を呑む音だけが微かに聞こえるのみ。
「ゆっくり、ゆっくりでいいですよ」
そう言った途端、先生は傷跡をなぞっていた左手を私の頬へと持っていく。まるで先程まで濡れていたものを拭うように指でなぞられる。太く、薄っすらと浮き出る血管の手の甲が少しだけ見えた。
あっかくて、やさしくて、おもわずからだがゆるみそう。まるで私がちいさいこどものようにかえったようだ。
「ここがげんじつか、たしかめたかったからです」
「と、いいますと」
「いたみをあたえることで、げんじつかどうかたしかめられると、よくいいますし」
「で、痛みは?」
「なにも、なかったです」
私がそう言うと教頭先生は静かに手を離す。そして―――太い腕が私の体を抱きしめてきた。
「なにもない……そんなはずはない筈です」
「痛くないのです。本当に。だから私はいま本当に現実にいるのか、わからなくて……ひとりきりの、ようで……」
「そうですか……ですが貴方は一人ではありませんし、私と共に現実にいます」
ぐ、と先生の体重がかかりゆっくりとソファに私の体が押さえつけられた。陶磁器のような肌に長い睫毛、鮮やかな翠玉と紅玉の瞳は星のように輝いていて――あっけにとられている無様な私を、映している。
「そしてここが現実であることを、あなたのその体に教え込みます」
吐息交じりに舐めるようなバリトンが鼓膜を震わせる。どくんと体が震えたと思いきや今度はぷち、ぷちとボタンが外れる音がした。ひやりとした空気が私の胸の上をかける。いや、もしかしてこれは――。
「せんせ、これは……?」
「思いっきり色々なものを感じるための下準備です。自分自身を傷つけるほかにも生を感じる方法をあなたにこれから教えるための、ですが……」
ちろりと赤い舌が先生の口から垣間見える。そして一気に先生の顔が私のなにもない胸元まで近づいて、生暖かい感触がやってくる。
ぴちゃぴちゃ、ちゅっちゅ、れろれろ。
先生の舌が私の胸を這っている。やわらかくて、別の生き物のようでよくわからない。
いや――これが、げんじつであるはずが、ない。だって先生はこういうことしちゃいけないし、ましてやわたしがのぞんでいようともそれはだめなことだから。
「せん、せ……なにを、して……」
「何って……あなたに生を感じる方法を教える下準備ですが」
「だって、わたしからのぞんでもこんなことは――」
「――名字さん、貴方はそういうことをされるのを望んでいたのですね?」
かり、と先生の歯が私の胸の飾りをあまがみする。ちがう、わたしは、ただ飛んで、消えて――
「あ……ん……」
「いい声ですが、もう少し我慢しましょうね。声が聞こえてしまっては大変なことになりますから」
ほら、と先生は私の胸の突起から口を離したかと思えば今度は私の口を丸ごと塞いだ。
「んぅ……あ、あ……」
思わず目を閉じて、フィクションでしか知らない口づけを受け止める。
口の隙間から先生の舌が割り込んできて、なにがなんだか分からないまま舌から逃げようとするけど捕まって、絡んで、唾液が余計に混ざり合う。そのうち頭がくらくらとしてきて……先生の体にしがみついた。
「悪い生徒ですね……」
息継ぎの間、三日月の弧のような口から先生の言葉が漏れる。
ああ、そうだ。いけないことと理解しながら半裸で先生に抱き着くなんて……ほんとうに、私は悪い生徒だ。
「はい、私は……ほんとうに、そうです……どうしようもないくらいに、線路から外れて……」
「そこではありませんよ、ったく、少しその口を塞ぐ必要がありますね」
「ちがいます……! ごかいで……あ……」
再びの、深くえぐる様な口づけ。
今度は何も口に含んでいないのにどのお菓子よりもあまくて、みずみずしくて、くせになりそう。
角度を変えて、丁寧にお行儀よく先生の舌と唾液を残さずに受け止めるうちに気づいたらすでに口は離れていて透明に輝く細い糸が私と先生をつないでいた。
「せんせ……」
「そろそろ次のステップに行きましょうか、名前さん」
糸を断ち切り大きな手が私のベストとブラウス、そのほか諸々を丁寧に、丁寧に剥いでいく。
ひやりとした空気が素肌を撫でて、胸のとっきがピンと主張し始めた。
「ああ、本当に……貴方は……」
さっきしゃぶられたところが、まじまじと見られている。大きなオッドアイに銀髪のカーテン。夕暮れ時故か人はあまりいない。世界には裸の私と服を着た先生とふたりきり。
「今更ですが、今日のことは秘密です。私と貴方だけの、内緒ですよ」
「はい、――は、い」
「はいは一度だけです」
再び、触れるだけのキスをする。もうちょっとだけ欲しい。もっと、もっと――先生が、欲しい。
「せん、せ」
手を伸ばして、先生の首の後ろに手を回そうとするも優しく先生の手によって止められる。目を伏せて彼は私の手をソファの上に優しく戻した。
「まだ、だめですよ。私にも準備というものがありますからね」
そういうと先生は立ち上がりネクタイに手をかけた。絹の擦れる音がしたかと思えば赤い蛇のようにとぐろを巻いて地へと落ちる。
次に灰色のジャケットとベストが乱雑に地面に落ちた。見ただけでも分かるくらい高そうなものなのにそれを気に留めないくらいに先生は静かに一枚ずつ、服を脱いでいく。最後のシャツを脱いだ後にはたくましい男の人があらわれた。服の下に、まるで美術の教科書で見たような彫刻のようなからだつき。もう二度と教頭先生のことを普通の目では見ることは叶わないだろう。
「名前さん、まだ、待っててください」
そういうと先生はガチャガチャとベルトを緩め、一気に下着ごとズボンを下ろす。
――その下には、すっかりぬらぬらと怒張した教頭先生の太く、大きな教鞭が上向いていた。
「せんせい、そ、それは……」
「ええ、保健体育の授業に出てきたそれ、ですよ」
実際にどうやってゴムをつけるかも見ましょうね、と先生はどこからともなくいつの間にか持っていた薄い正方形を丁寧に破り、透明な円を自分自身の教鞭にかぶせる。伝聞でしか聞いたことのないそれが目の前で徐に行われている様から目がなぜか、離せない。
じっと見ているうちに透明なゴムの膜がすっぽりと先生の教鞭を覆う。教鞭の根元の茂みは丁寧に整備されているからかよけいに大きく堂々としているように見えた。
「こうすることで、性感染症も予防できることができて――望まない結果に繋がるリスクも減らせるということは知っていますね?」
先生の言われるがままに首を縦に振る。ああ、そうか、つまり私は――これから、あの教鞭で、指導されるのか。
「本番はこれからです、名前さん」
一際、先生の双眸が輝く。
大きな手で私の太ももが持ち上げられてずっとさらしていなかった場所が、先生によって暴かれた。誰にも見られていないところを見られたのかほぼ本能的に両手で隠そうとするが先生の体によって阻まれる。それどころか、薄い膜越しに先生の教鞭が私の秘密にそっと触れた。
どくどくと、あつくて、とけてしまいそうなのにわたしのひみつが、じわじわとしている。
「――知りたくないなら、今ここで拒否しなさい。知ってしまったらもう戻れません」
それでもいいですか、とクリームのようなテノールが私の耳元でささやく。
ぐり、と一気に入れたら貫かれそうな熱いものがあたるたびに脳内のサイレンは遠ざかっていく。
先生なりのやさしさであることは理解していようとも、絶対に拒否した方がいいと脳は判定していようとも――今更、こんなに甘ったるい理性喪失の行為を深くしている時点で、もう、ひきかえせない。
低い声に交じり吐息が聞こえる。はやくつっこんでほしくて私のひみつを先生の教鞭に押し当てる。
「知りたい……です」
弱弱しい声が、しんとした茜色の狭い教室に響き渡る。
ああ、と教頭先生がいった後でどくん、と先生の教鞭がひときわ強く脈打った。さらに先生の教鞭が熱くなる。銀の髪のカーテンの奥にある先生の顔は普段では決して見せないような顔をしていた。蛇のようで、先生ではなく唯一人の『男』のような、そういう顔。
まるで私の答えをずっと待ち望んでいたと言わんばかりに口角をほんの少しだけ歪ませてさらに瞳がぎらつく。
「はい、わかりました。ではいきますよ。声は……我慢するように」
そういうと先生は私の口を覆うようにまた深い口づけをした。
それと同時に、熱いものが私の秘密を拓いていく。
ぬちぬちといっていて、強引に暴かれていくようで――いたい。
声を出そうにも先生の舌が入っていて出せそうにない。薄目を開いて先生の顔を見てみると長い睫毛の隙間から鮮やかな瞳がのぞいていた。
「どう、ですか?」
突然口が離されて聞かれるも三回のキスに何かが入っている状態では、何も絞り出せない。ただ息を整えるだけで精いっぱいだ。
「わから……ないです……」
「ええ、中の締まり具合からおそらく初めてでしょう。分からないのも無理はありません」
ほら、と教頭先生が私の秘密と先生の教鞭が繋がっているところに触れる。
「今、私の陰茎が貴方の中に入っている状態です」
わかりますか? と軽く先生は奥を突く。
具体的な名前、瞬間、未知が――私の奥に触れた途端どこか変な感触がかけめぐる。
「んぁ……は――は、はい……なんか、へんで、わからない、です……」
「その感触、覚えるように。……それが、貴方がここにいることを示す証ですからね」
「それって――あんっ……なかのものが、ざらざらって……」
「そう、ここで、貴方は今『現実』にいることを学ぶのです」
先生は丁寧に丁寧に私の中をほぐしていき変な感触の全体像を浮かび上がらせていく。痛みも和らいで、私の中が先生のモノに合わせて変わっていく感じが、ある。全部先生のものが出そうになるとおもいきや、一気に奥まで貫かれる行為の繰り返し。理科の実験でやったような空気ピストンみたい。
「だんだん締まってきましたね。ずっとここが私のモノを離したくないって言っているようです」
まったく、正直ですねこのお口は。
ああ、本当にそのとおり、かもしれない。何もいえないからこそ体がものがたってしまっているのかも。
にがしたくなくて、あまったるいんだけどへんなかんじ。でもなぜか癖になるけど認めちゃったら負けになっちゃいそう。
「ちが……います……。わたし、こんな、その……ゆめじゃ……」
「夢なら、何故声が震えているのですか?」
ずぶ、と私の中の奥深くに先生の太くて大きなものがさらに入ってくる。薄いゴム越しにどくどくと脈打つそれが、未開の私の中を拓いていく。当然、今まで何も入れていないそれが入ってくるには通常感じるであろうものが走る訳で――。
「わから、ないです……いた、いだい……あっ、せんせ、たすけ――」
「よく言えましたね、分からないのならばこれからわかれば……いいのですよ」
私の腰を力強く片手で抱え、先生の太いものが打ち付けられる。
「―――っ!」
瞬間、体に白が駆け巡る。声にならない声を殺そうとするが殺しきれなくて――
「あぁ―――っ、ん……!!」
先生にしがみつく。わからなくて、どうしようもなくて――私は、死んだ。しかしそれは間違いであることに気づく。
「おやおや、早速いきましたか」
「い、く……?」
「おもいっきり気持ちよくなることです。いいことなんですよ?」
とんとんと先生が私の腰にかるく打ち付ける。白が駆け巡った余韻が残る私の中にまだ、先生のものがある。
「いい、こと……」
「ええ、そうです。それもまた貴方がここにいる証です。わかりますね?」
ああつまり、死んだような感じになるのがいく、で――これが、私が現実にいるというしょうめい。
すっかり乱れた先生の髪の毛は橙を反射していてきらきら、輝いている。少しだけ息が上がっている先生。力強くその腕で私を抱いている先生。変わらない笑みを浮かべている上に声もひどく穏やかで少し何を思っているのか分からないけど――今は、いい先生、なのかもしれない。
そんな先生は今、私だけに……いくことを、教えている。
「はい……!はい、わかりました、きょうとうせんせぇ……!」
「では……復習といきましょう」
さらに一際肉を貫かれる。深く、深く私の中がえぐられるような感触。
「あぁ――んぅ……せん、せ……」
「ナ、マ、エ、さん……ナ…マエさん……!」
先生のからだとわたしのからだがぴたりとくっつく。ゴツゴツした先生のからだ、分厚くて大きな先生のからだが私の胸をつぶすようにのしかかる。先生の肌が私の胸の突起に触れて動かすたびにまた白が駆け巡りそう。
「貴方の中、とても素直ですね……すでに私のモノに合わせて掴んで離したくないといいたげですよ?」
「ほん…とうですか……あぁっ」
「ええ、そういってます」
ザラザラとした声、触れるだけの口づけ。ギラつく瞳、温かい匂い、甘ったるい唾液。五感が冴えてきて打ち付けられる腰からくる刺激が心地良くなり始める。ああ、これが、生きてるということかも、しれない。
「せんせ……わたし、これ、すき……せんせ、すき……」
「好き、ですか……今やってることですか? それとも……」
「どっちも、です……! これも、やさしいせんせぇ、も……っ!」
「―――そうですか、そうですか……。素直な貴方にはご褒美をしなければ……!」
先生の咥内から尖った犬歯がちらりと見える。
それと同時に熱く肥大した教鞭の出し入れが激しく音を立ててきた。奥を撫でて突いては、私の中から出る寸前までに引き抜かれそうになるの繰り返し。力強い抱擁の中で私は、無我夢中に先生にしがみつく。
「あんっ……あ、ら、めぇ……こわれちゃう……こわれま……す……」
「貴方は壊れません、よ……! ほ、ら……!」
瞬間、また白がはじけそうになる。
思わず自分の足を先生の分厚い腰に回した。壊れないといわれても、本当にそうなのかよく、わからない。
「だって……また、いく、かもしれなくて……!」
不安を、また先生に打ち明けてしまった。こんなときになんてきっと先生は軽蔑するに違いないと思ったがそのようなそぶりは見せずに長い睫毛を一たび上下させた後、乱れた髪をかき上げて息が掛かる距離まで顔を近づけた。
「大丈夫ですよ、今度は私もいっしょに、いきますから……ね」
ほら、と先生は私の腰を再び打ち付ける。精悍な顔を少しだけ歪ませたと思いきや大きな口で私の口をまた塞いだ。
「ん……あ、う……っ!」
「ああ……ほら、もうすぐいきましょう、ね……!」
どろりとした声が、脳で反響する。
茜の窓、静けさ、そして――せんせい。白が肥大して、ずん、と強く秘密を貫かれる。途端――
「あ、いく、せんせ、あ、あ――――!」
すでに暴かれた秘密は散り、先生の腕の中で声を殺して境界から逸脱する。
そして薄れゆく意識の中で先生のモノが脈打ち、私の中でゴムの形が変わったかのような感じがした。
◇
「せん……せい」
「名前さん、大丈夫ですよ。貴方は」
重い体をゆっくりと起こす。壁にかかっている時計は最終下校時刻の15分前を指していた。これだけあれば少し急いで身支度を整えても何も支障はないだろう。
「は……い……」
ふわふわと地に足がつかない心地で教頭先生に支えられながらソファから立ち上がり、乱れた着衣を簡単に整える。さんざん縋ったはずなのに、またあの虚ろなるものを抱きしめたくなる。
いけないことをしたというのに、求めていたのはこれかもしれないという猜疑心。否、どうせ誰も気にしてないのだからこれでいいんだ。これが、現実なんだ。
「あなたがここにいるのは、さっきしたことは現実です。夢かどうかわからなくなって足元が覚束なくなったときはいつでも頼っていいのですよ。頼ることは恥でもやってはいけないことでもありません」
「恥じゃ、ない」
「ええ、あなたはきちんと現実にいます。確かめたくなったら、頼りたくなったら――遠慮なく頼ってくださいね?」
優しく肩に手を置かれ、ねっとりと低い声が耳を舐る。
じとりとしたものに足首を掴まれたような気がしながらも私は夢見心地のまま、首を縦に振った。
「はい、先生……また……」
「ええ、また明日」
ジャケットに袖を通し、先生に挨拶をして学校を去る。また明日、の言葉でその足取りが重くなったのは初めてだった。
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます